html> ☆クラジュリ/イノシシとオニ。番外編☆

こちらは1050ヒットの桜さまより頂いた、リクエスト小説です。 本編の『イノシシとオニ。』の番外編として闇光のラブラブ(笑)話を書いております。 このお話をすっ飛ばして読まれても、『イノシシとオニ。』のストーリーには全く問題ありません。 少しだけ立場が逆転したような、そんな彼らのお話です☆ 「…戻ったか」 自分の執務室の扉を 開けると、クラヴィスがソファーに身を沈めていた。 「ああ…、来ていたのか、クラヴィス」 「書類を届けに…、な…。ついでにオスカーに話を聞いていたところだ」 オスカーは扉側の壁に寄りかかり、腕を組んで立っていた。 「オスカー…。さっきのは少し、遣り過ぎだったのではないか…?」 そんなジュリアスの言葉にもオスカーは楽し気な表情をしたままだ。 「いえ、アレでいいんですよ。俺の役目は悪役ですからね」 「…呆れたな…」 「ですが、ジュリアス様がフォローして下さったのでしょう? アレで良かったんですよ、 ゼフェルにはさぞ堪えたでしょうから」 確かに、アレではな…。 「……私も…その場で見たかったものだな…」 クラヴィスが残念そうに呟く。 「……クラヴィス…。見世物ではないのだ…」 「しかし、ランディのヤツ、大分参っていた様でしたので、俺もつい…」 「これで吉と出るか、凶と出るか……」 「…知りたいか? ジュリアス…」 クラヴィスがカードを手に、悪戯っぽくニヤリ、と笑う。 「…いや、良いのだ。今知ったら、どっちにしろ私には耐えられぬ…」 「俺も遠慮しておきますよ、本人達の口から直接聞きたいですからね」 では、とオスカーは戻って行った。   「……案ずるな、ジュリアス…」 クラヴィスは自分の膝をポン、と叩きながらジュリアスを見る。 ジュリアスは何の事だか判らず、じっとそれを見つめている。 「ジュリアス、ここに座れ」 と、同じ仕草を繰り返す。 「…クラヴィス…、本気か?」 「いいから、早く来い。…来ないと襲うぞ…」 「…どっちもイヤだ…」 「それはナシだ」 この男の頭の中を一度、開いて見てみたいモノだとジュリアスは思ったが、逆に今以上に恐ろしい思いをするだろうと、 余計にめまいを覚えた。 「…まだ執務時間内だぞ、何を考えている…」 「…その時間内に、余計なお節介を焼く為に、倍以上の仕事を片付けたのだろう…? 今日お前にすべき事は、 もう無い筈だが…?」 「……む…」 返す言葉に詰まるジュリアス。 この男は、こんなに良く喋るヤツだったか? 「そんなに私に近付くのがイヤなのか…?」 少し諦めた様な、寂しげな表情でジュリアスに問うのに、びっくりしてジュリアスは慌てて訂正する。 「そ……、そうではない。私は…そういった事に慣れていないのだ…。どうして良いのか、わからなくなってしまう…」 そんな理由を言うのでさえ恥ずかしくて、ジュリアスは気を抜いたら泣いてしまいそうになるのを必死で堪える。 「…ジュリアス…、こちらへ…。私の側へ…」 再び、クラヴィスが呼ぶ。 ジュリアスも仕方なく、クラヴィスの正面までやって来る。 「手を……私の方へ…」 言われるまま、手を差し出す。 すると、いきなりその手を掴んだと思ったら、グイッと引かれ、体はソファーの上へと倒れ込んだ。 …いや、正確にはソファーに座ったクラヴィスの上へ。 しっかりと抱きすくめられ、結果的にはクラヴィスの望む形で収まってしまった。 「…っ。クラヴィス…」 「…そんなに思う程、抵抗はなかろう…?」 「私には…十分過ぎる程だが…」 背中から腰へと流れる豊かな髪を撫でながら、ジュリアスの手を握る。 「……お前にしてやれる事は、もう無い。後は、あの二人の問題だからな。それに……」 「…それに?」 握っていた手を一端離し、再び掌を合わせ、指と指の間を絡め取る様に握り直す。 「……今は…私の事だけ考えろ…、ジュリアス…」 瞳を見つめられながら、いつになく熱っぽく囁かれる。 「……」 いつもいつも、臆面も無く恥ずかしい事ばかり言うこの男……。 しかし…、今の…コレ…は…? 「…クラヴィス…? そなた、もしかして…嫉妬している、のか…?」 ジュリアスは信じられない、とばかりに驚きの表情でクラヴィスを見る。 すると、クラヴィスはまるで、小さな子供の悪戯が見付かってしまった時の様な表情をしていたのだ。 「…お前はいつもいつも、私の事は二の次だからな…。私の身にもなってみろ。嫉妬の一つや二つは当然だろう…?」 その顔を見られてバツが悪いのか、ジュリアスの頭を自分の肩口へ抱き寄せる。 クラヴィスが…あのクラヴィスが…? いつも私を振り回している、この男がヤキモチを妬いている…?! しかも、ランディとゼフェル相手に…。 「くくっ…」 ジュリアスはとうとう堪え切れなくなって、吹き出してしまった。 肩を小刻みに震わせ、必死で抑えてはいるが…。 「…ジュリアス…」 やっと笑いが収まる頃には、もうジュリアスは涙目になっていた。 「…楽しかったか? ジュリアス…」 心なしかクラヴィスの顔が引き攣っている様に見える。 普段は無表情で、あまり感情を表に出さない男が見せたあの顔。 ジュリアスは、自分だけがそんな表情をさせられる存在なのだと、幸せな気持ちで満たされてゆくのがわかった。 「…もちろん、楽しませてもらったぞ…?」 満面の笑みで答えるジュリアスに、拗ねていた筈のクラヴィスもちょっとグラリ、と揺れてしまった。 「…それに……」 「…?」 「……正直、私は嬉しかったし、…な…?」   そう言ってジュリアスは左手をクラヴィスの右頬にあて、自分の方へ向かせると、クラヴィスの唇に自分のそれを重ねた。 「……!!」 これは夢ではないのか…? 夢でなければ何が起こったのか…? 今迄どんなに脅そうが、宥めすかそうが、絶対にジュリアスからはしてくれなかったのに、だ。 しかも、さっきは敢え無く失敗したのを忘れた訳では無いだろう。 クラヴィスはもう二度と無いかもしれないチャンスとばかりに、もっと深く口付けようと口を開けると…。 あろうことか、ジュリアスの方から舌を差し入れて来た。 「っ…!!」 天にも昇る気持ちとは、こういう事を言うのだろうか…。 クラヴィスは嬉しさのあまり、いつもよりも激しくジュリアスを求めてしまう。 「……んっ?! …は…ぁ…ク、クラ…ん…っ、こ…の…」 結局、あまりの激しさに呼吸を上手く出来なくなったジュリアスに、いつもの様にベリッと剥がされてしまったのだ。 「クラヴィス…加減と言う言葉を知らないのか…?」 口調は怒ってはいるが、ジュリアスの顔は赤いままで、ただ困惑しているといった風である。   「お前から初めて求められて、私が加減などできると思うのか?」 「……」 しかも、いつものパターンならジュリアスは怒りここでさっさとクラヴィスから体を離してしまうところなのだが…。 「…お前はまだ…、ここにいるのだし…な?」 「仕方がなかろう…? 私も、嬉しかったと言ったではないか…」 「…?」 ジュリアスはワザとクラヴィスの耳元へと囁く。 「そなたの…、意外な顔が見られたのだからな…?」 「っ…?! ジュリアス…」 「…思いがけず、今日は良いモノが見る事が出来た…」 そういうクラヴィスも、イイ思いをしたのだから、おあいこだろう。 「…ジュリアス…?」 「…何だ?」 「…もう一度、お前からしてはくれぬか…?」 クラヴィスは、ダメもとで言ってみる事にする。 ジュリアスは一瞬、かぁ〜っと頬を染めると、はにかみながらそれはもう、見惚れる程の綺麗な微笑みで、こう言った。 「…目を…閉じて…」 クラヴィスはさっきの鼻の痛みを思い出したが、素直にジュリアスの言う通りに目を閉じて待つ。 期待と不安で入り混じるクラヴィスの思考に合わせ、彼の眉間には一筋の皺がうっすらと刻まれてくる。 クラヴィスが恐らくその事を逡巡しているのを見てとったジュリアス。 柔らかい微笑を湛えながら、ゆっくりとクラヴィスの顔に近付く。 と、さっさと同じ優しく押し包まれる感触を、クラヴィスは自分の唇で受け止めていた。 クラヴィスが驚いて瞳を見開くと、それはすぐに離れて行ってしまった。 「っ…ジュリ……」 名を呼ぼうとするが、またジュリアスにキスで塞がれる。 今度は離すまいと、ジュリアスの後頭部をしっかり押さえ、何度も何度も角度を変えながら舌を絡め合う。 「…んんっ…ふ…っ、…ん…」 ジュリアスも今回は無理に引き剥がす事無く、クラヴィスの首に腕を回し、キスに応じている。 クラヴィスは名残惜しそうにジュリアスの舌をちゅっ、と吸うと、ようやく唇を解放する。 ジュリアスは目の縁と頬を赤く染めたまま、少し息を荒くさせている。 彼の瞳には涙が薄く溜って潤み、今迄見た事の無い程の凄絶な色気を放っていた。 「……!!」 クラヴィスはできるだけ落ち着きを取り戻そうと、深く息を吸い込んだ。 「…ジュリアス…、悪いのだが…」 「…何…、だ…?」 「…私の上から、早く離れてはくれぬか…?」 「…っ?!」 ジュリアスは一気に顔色を取り戻し、驚いてクラヴィスの顔を見た。 視線を合わそうとしない恋人の様子に唇を噛み、その顔をきっと一瞥する。 「…わかった」 顔と声を硬く強張らせ、さっさと膝から降りようとするジュリアスの腕を慌ててクラヴィスが掴む。 「…っ…?! その手を離せ…。降りられぬ…」 「…誤解するな。お前が離れなければ、私がお前を離してやれなくなるという事だ…。それでも、良いのか…?」 「……?」 クラヴィスの言う事に首を傾げるが、ジュリアスのその表情はまだ怒りを解いてはいない。 「…ここで、お前を襲うのも…一興、か…?」 「…なっ?! ク、クラヴィスっ…?!」 やっとその意味を理解したジュリアスは、案の定頬を真っ赤にして狼狽する。 正に予想通りの恋人の反応に、クラヴィスも苦笑を浮かべる。 「…そうだな…。私も、ここでは…遠慮したいところだ…」 「…だろう? だから…?!」 言いかけて、クラヴィスがはた、と気付き、まじまじとジュリアスの顔を眺める。 目を反らしたジュリアスの頬は再び朱をさしている。 「…ジュリアス? それは…、ここでなければ…良いと言う意味なのか…?」 クラヴィスの言葉に、ジュリアスはみるみるウチに首迄赤くなってしまった。 「…ジュリアス…言わぬと、私は都合の良い様に解釈するぞ…?」 ジュリアスはクラヴィスに掴まれたままの腕をもう一方の手で離そうとしたが、逆にそれに気付いたクラヴィスに更に 強く握られてしまい、痛みに眉をしかめる。 「クラヴィス…腕を…。痛いではないか…」 弱々しく訴える声に、クラヴィスははっとして手を離した。 「あ…すまぬ…。ああ、痕がついてしまったな…」 強い力を入れたせいで、ジュリアスの腕には手形が赤く残っていた。 「全く…。バカ力を出すからだ…」 ジュリアスは苦笑しながら机に向かい、数枚の書類を手にすると、出口へと歩き出す。 「…ジュリアス?」 クラヴィスが少し不安気な声を出す。 扉を開け振り返ると、ジュリアスは少し困った様にほんのり頬を染めていた。 「…ここにいると、何やら身の危険を感じるのでな…。書類を届けたら、私はもう館に戻って休む事にする」 そう言ってくるりと踵を返し、立ち去ろうとした。 「ジュリアス…」 慌ててクラヴィスが立ち上がり、ジュリアスのいる扉まで駆け寄る。 閉じようとした扉を掴んでそれを阻み、こちらを見ようとしない恋人の腰を後ろから抱き締めた。 「クラヴィス…。まだ時間内だぞ…?」 「…それがどうした?」 「…答えが聞きたければ…後程別の場所で、確かめれば良かろう…?」 何…? 今…、何と…? 呆けてしまったクラヴィスの腕からするりと脱け出すと、そそくさと逃げる様にジュリアスは行ってしまった。 あのジュリアスが…。 奥手でどうしようもなく恥ずかしがりの恋人が、ようやく決心したというのか…。 「参った…、な…」 今が終業時刻間際で本当に良かった…と、しみじみ思うクラヴィスであった。 ブラウザの『戻る』で移動される事をお奨め致します。 ↓のリンクで戻ると、ページのトップへ戻ってしまい、続きをスクロールするのに非常に腹が立ちます(笑)。 ☆イノシシとオニへ戻る☆/☆back☆/☆小説部屋トップへ☆/☆トップページへ☆