「ああ…、思った通りだね。良く似合ってるよ☆」

「そ…そうですか? あの、おかしく…ないですか?」

「ん〜? 全然? むしろ、いつもとは違った色気も出て…そそられるよ☆」

「なっ…?! ち、違います!! その、帯とか、の事です…」

「あ? ああ、そういう事? んじゃ、ちょっと後ろ、向いてごらん?」

「は、はい」



はオリヴィエに言われるまま、彼に背中を向ける。

取り敢えず初めて着る、浴衣。

一応教えられたとおりに着たつもりだが、最後の帯だけが上手く結ぶ事が出来ずに、相当長い事格闘していたのだ。



「ああ、上手く結べてるじゃないの。でも、ちょっとだけ形を直すね?」

「は、はい。お願いします」



結び直す際の軽く引っ張られる帯の感触。

思ったより強かった力に、ややぐらついてしまった。



「わ…っ!!」

「アラ? ごめんね、強く引きすぎた?」

「い、いえ…着慣れないもので…」

「ふふっ、そうだよねえ。ココに居れば、そんな機会無いだろうし」

「ええ…でも綺麗な柄だし、涼しげで雰囲気があって…素敵ですよね」

「…気に入って貰えた?」

「はい、勿論です! 私、向日葵の花、大好きなんですよ!」

「…知ってるよ」

「…え?」

「ん、何でもないよ。…はい、出来上がり☆」

「あ、ありがとうございます!」



ポン、と腰とお尻との間のきわどい部分を部分をオリヴィエに軽く叩かれ、は何の意味も無いと頭で言い聞かせながらも、頬を赤らめていた。





























夢の守護聖である、オリヴィエとの想いが通じ合ったのは、ごくごく最近の事であった。

彼が夕涼みと称して夜の散歩に行こうと誘いに来たのだが、その手には見慣れぬものが抱えられていた。



「オリヴィエ様、それ…何ですか? 向日葵の…布??」

「ん? ああ、コレはね、『浴衣』って言うんだよ。布じゃなくて、もう仕立てられてる状態なの」

「ゆ、浴衣、ですか?」

「そ☆ 着物より堅苦しい物じゃないし、夏はやっぱり浴衣でしょ?」

「そ、そうなんですか?」

「そうなんです☆ コレ着て、私とデートしてくれるよね?」

「は…、はい!! でも…」

「何?」

「私、着た事無いんですけど、上手く着られるかしら?」

「大丈夫!! 私が着せてあげるから☆」

「えええっ?! や、そ…それはちょっと…!!」

「何よ、文句あるの?!」

「そうじゃなくて…は、恥ずかしいからいいです!! 着方、教えて下さい。…自分で着ますから」

「そ〜お? …チッ、残念…」

「…はい?」

「ん、何でもないよ?」





























が着替えている間にオリヴィエが既に着こなしていた浴衣は、紺地に鮮やかな色彩の蝶が肩と裾の部分にあしらわれているものだった。

やや大きく開けてある胸元には、肌に直接描かれている小さな蝶が覗いていた。



「オリヴィエ様…、それ…?」

「ああ、コレ? キレイでしょ、ボディペインティングだよ。…タトゥーじゃないからね☆」

「は、はあ…」



やだ…。

何だか、いつもよりすごく、色っぽい…。

大体普段からオリヴィエ様ってば、女の私なんかより色気があるのに…。

何か、敵わないなあって感じ。



でもそれは、嫉妬だとか嫌な気持ちではなく。

彼の醸し出す色気は、外見だけじゃなく内面から表れているものだと、はちゃんとわかっているのだ。



優しくて、いつも私を気遣ってくれて…。

何でもない振りをしながら、いつも色んな事に気を配っている方。



本当に敵わないなあ、って思うの。



「…? どうかしたの?」

「…えっ?」

「ボーっとしちゃって…。もしや、このオリヴィエ様の浴衣姿にクラクラきちゃったのかな?」



冗談めかして言ったオリヴィエの言葉に、は素直に頷いていた。



「ええ…すごく、お似合いです。その蝶の柄の浴衣も、胸の蝶も…」

「!!」



さっきとはまるで違う、の視線。

オリヴィエは思わず息を呑んで居たのですら、自分で気付かなかったほど彼女に釘付けだった。

うっとりとして自分を眺めるその視線は、正に蝶に誘いをかける花のようでもあり。

まだ少女だと思っていたこの恋人の、女の部分を垣間見たような気分にさせられる。



「ねえ…?」

「はい…?」

「私から誘ったのになんだけどさ。…今日はもう、外へ行くのは止めにしない?」

「…え? だ、だって…折角頑張って着たのに…」



突然のオリヴィエの言葉に、は驚きの表情を隠さずに呟いた。

どうして、と小さく動いた可愛らしい唇から、目が離せないオリヴィエ。

きっと彼女も浴衣を着て出かけるのを、楽しみにしていてくれたのだろう。

だが、オリヴィエにとっては逆に余計な心配が今になって、出来てしまったのである。

じ、っと自分の顔を窺うように見つめている恋人の髪に、そっと触れながらオリヴィエは言った。



そんな顔、するから…。



「だから、だよ」

「え? ど…どういうことですか??」



オリヴィエの言葉がよくわからない、といった風に首を傾げる

人差し指を顎に立て、少しだけ唇を尖らせている。

そんな表情も、堪らなく愛しい。

オリヴィエは苦笑しながら、のその尖った唇に指を滑らせる。



「あっ…」

「アンタがあんまり可愛くなっちゃうから、だよ」

「えええ?!」

「夜とは言え、まだ出歩いている人は居るだろうし、この可愛い姿を誰にも見られたくないんだよ」

「オ…オリヴィエ様…」



わかってよ?



耳元でそう囁かれたと思ったら、次の瞬間にはオリヴィエのその唇がのそれを、あっという間に掠めていった。

可哀相な程に真っ赤になってしまった

頭からシューシューと、湯気を出しかねないくらい、真っ赤である。

オリヴィエは、その頬を両手でそっと、包み込んだ。



ハッと視線を上げ、のやや潤んだ瞳がオリヴィエの胸を射抜いたような気がした。



参った、ねえ…。

堪んないよ、もう。



「ねえ、?」

「は、はい…」

「男が女に服を贈るっての、どういう意味があると思う?」

「い、意味…ですか?」

「そ。意味」

「え…? な、何だろ…??」

「勿論、可愛いアンタが見たいのもその一つなんだけどさ☆」

「えっ…」

「自分が贈った服を、脱がす為に決まってるじゃないの☆」

「は………?! え、えええっ?!」

「アンタにそんな色っぽい目で見つめられたら、私も我慢出来なくなっちゃった♪」

「ちょっ…、オリヴィエ様っ?!」

「ん? 何?」

「ぬ、脱がす為って…」

「ハイ、お喋りはもうお終い☆」

「え…っ、ちょ…んむっ!!」



まだ言いたい事があったのに。



それも言えぬまま、はオリヴィエの唇によって、しっかりと塞がれてしまっていた。



















オリヴィエとキスをするのは、まだ数えるほどしかなかった。

だが、いつものキスとは明らかに違ったのだけは、にも伝わっていた。



優しいけど、熱い…熱が感じるキス。

何度も角度を変えては、私の唇から総てを奪っていきそうな、情熱的なキス。



思わずの鼻から甘い息が漏れるのも、その合間に聞こえる舌が絡み合う音も、更にお互いの理性を剥がしていくだけだった。

ちゅ…っと名残惜しげに離された唇。

どちらのものかわからない唾液が、の口の端からひとすじ零れた。

キスの余韻に、うっとりとした表情の

それだけでオリヴィエの衝動は抑えるのがやっとである。

彼女の口から流れる糸を、親指で拭ってやると甘い声が漏れる。



「んっ…」

「…どうする? 今なら、まだ間に合うよ…?」

「間に…合う…?」

「そう。でないと、私は…アンタを襲っちゃいそうだから」

「…!!」



にこり、と微笑んだオリヴィエの笑顔に、は心臓が激しく揺れるような衝撃を感じた。

実際、彼は余裕かまして笑顔を見せてはいたが、内心はとんでもない位に欲情していた。

気取られぬよう、精一杯の笑顔をして見せていたのである。

だが、にも薄々それは感じられたようだ。



あ…。

いつもの…オリヴィエ様じゃ、ない…。

な、何だろう…この、感じ…。

オリヴィエ様も男の人だって、わかってたつもりだったけど…私、何にもわかってなかったんだなあ…。


でも。

私だけじゃなかったんだ…。

良かった…。



「…?」

「オリヴィエ様…」

「何?」

「あの…、私…」

「やっぱり、止める?」

「だ…ダメ!!」

「…へ?!」

「あっ…!!」

…? イイの…?」

「は…、はい…」

「途中で『やっぱ止めて!!』なんて言われても、止めてあげられないんだよ?」

「い、いいんです…!! 私、本当はずっと…」

「!!」

「わ、私に色気が無かったのかなあ、なんて思ってたから…」

「へ…?! そんな事考えてたの?!」

「は、はい…」



唖然としてを眺めるオリヴィエ。

この大事な恋人はまだ少女で、自分の一方的な欲望を押し付ける訳にはいかないと、必死で我慢してきたと言うのに。



このオリヴィエ様ともあろうものが…。

まだまだ、だねえ…。



フッと、苦笑を漏らすオリヴィエに、が慌てる。



「オ…オリヴィエ様…。もしかして私の事、キライになっちゃいました…?」

「は?! 何で?! メチャメチャ嬉しいに決まってんじゃないの!!」

「だ、だって…」



既に涙目になっている恋人の目元に、キスを落とすオリヴィエ。



「ゴメン、ね? アンタの口から言わせるなんて、私もまだまだだったよ…」

「…え?」

「色々考え過ぎちゃってたんだねえ、私達は。でもアンタの気持ちも聞けたし、私は嬉しかったんだよ?」

「あ…」

「愛してるよ、。アンタを私だけのものにして、イイ…?」

「は、はい…。私も、愛してます…オリヴィエ様…」



再び、どちらからともなく重ねられた唇。



夕涼みどころではなくなってしまったな、とお互いが思っていた事は、誰の知る由も無かったのは言うまでもない…。



















☆甘甘砂吐きオマケ(笑)☆









「ねえ、?」

「はい?」

「今度は私が全部、着せてあげるからね?」

「…はい、オリヴィエ様…」

「それから…」

「え…?」

「それを脱がすのも、私だけだからね☆」

「っ…!! は、はい…」

「ふふ☆ よろしい」

「もう…オリヴィエ様のエッチ!!」

「何よ、ヤじゃないくせに?」

「だ、だって…」

「ん?」

「今のって、脱がすのが目的みたいで、ちょっと…」

「しょうがないでしょ? 私だって浮かれてるんだから」

「え…?」

「…今度はちゃんと、デートしよう?」

「…はい!!」

「愛してるよ、私の…可愛い…」

「オリヴィエ様…」

「今は…私の事だけで一杯にしてよね?」

「そんなの…私、いつもです」

「!!」

「オリヴィエ様と居るだけで、私…」

「そんな可愛い事言ってくれちゃって…このコはもう…!!」

「きゃ…っ?!」

「離したくなくなるじゃないの!!」

「はい…離さないで下さい…」

「じゃあ…もう一回、する?」

「!!!!」

「真っ赤になっちゃって、可愛いねえ☆」

「オ、オリヴィエ様がしたいなら、私…」

「!!」

「もう…そんなに見ないで下さい!! 恥ずかしい…!!」

「イイじゃないの、愛し合ってるんだから☆」

「………」

「ね、言って?」

「…私も愛しています、オリヴィエ様…」

「ん、知ってる。私もアンタの事、愛してるよ。私の…大事な…」



















あとがき:


ぐはっ…!!

勢いのみで書いてしまったこの話…。

狼さまの素敵なお題に、フラフラ〜っと吸い寄せられるように一気に書いてしまいました…。

や、豆田にもまだスイッチが残ってるんだなあ、と嬉しくもありこの酷い出来にヘコんでもおります(汗)。

甘甘でもないし、コメディにもなりきれなかったしで、メタメタです(涙)。


え〜、ちっとも関係ありませんが、今回のお話のBGMはBACK STREET BOYSの『DROWNING〜何でこんなに好きなんだろう〜』でした(笑)。

この気持ちをどうやったら相手に伝えられるのかな、ってな感じで書きたかったのに見事撃沈でした…。


お題にそぐわない話になってしまった事を、深くお詫び致しますm(_ _)m
< 皆様、失礼致しました!!


そしてここまで読んで下さって、ありがとうございました!!



2006/07/28公開

2007/04/20加筆修正









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