…あれから一晩たって、ゼフェルはルヴァとオリヴィエの所へ向かった。 自分達の事で皆に心配をかけてしまった事を、悪かったと素直に思っていた。 「とりあえず、アイツらんとこ行っときゃイイだろ…」 ルヴァの執務室の扉をノックする。 やや間があって、オリヴィエが出てきた。 「あら、ゼフェル。今日はどうしたの? …もう愚痴は勘弁してよね?」 オリヴィエは意地悪く笑いながらウィンクをする。 「…あのな。そんなんで来たんじゃねーよ。ルヴァは? いるんだろ?」 「勿論居るよ? ココ、ルヴァの部屋だしね」 「しっかしおめーら、ホントに仲いいのなー。ちょっと呆れるくらいになー…」 「んま、失礼しちゃうねえ、このコったら。羨ましいからって、やっかまないでよね」 そう言うと、オリヴィエは肩にかかる髪をファサッと後ろへ掻き上げた。 その時、彼の首に赤い何か痣の様なものがチラリと覗かせた。 「お、おい、オリヴィエ。おめー…首んトコ、何か赤いの付いてるぜ? どっかぶつけたのか?  あー、でも虫刺されにも見えるけどなー」 ゼフェルの言葉にポッと紅くなるオリヴィエを不思議そうに眺めている。 すると、オリヴィエはゼフェルの顔をじっと見詰めると、ニヤッと妖しい笑みを浮かべる。 「な、何だよ? コエーな」 「んっふっふっ〜。コレはね、謂わば愛の証ね」 「はあーー?」 「本当に知らないの?! へえ…驚いた…」  二人して全く別の意味で呆気に取られている。 「オリヴィエ? そんなところではなんですから、中へ…」 ルヴァが室内から声を掛ける。 「あっ、そうだね。ゴメン、さ、中へどうぞ?」 促されるままゼフェルは中へと入った。 「今日はどうしたんですか、ゼフェル?」 ルヴァがいつもと同じ笑顔で迎えてくれる。 何があってもいつもいつも同じ態度で接してくれるルヴァに、ゼフェルは感謝していた。 悩んでいる時も、苛ついて八つ当たりをしてしまった時も、変わらない笑顔で受け止めてくれる。 否定をせず、自分の話を聞いてくれる。 不思議なヤツだよなー…。 そんな事をぼーっと考えていると、心配そうにオリヴィエが声を掛ける。  「ちょっと、ゼフェル? 大丈夫? 帰ってきてよ。…んもう、どうしちゃったっていうの?」 オリヴィエに肩を掴まれ、ゼフェルは身体を前後に揺すられる。 「あ? …ああ、ワリー…。ちょっと向こうにイっちまってた…」 「で? どうしたのよ? 何かあった?」 ルヴァもオリヴィエも察しはついていたが、ゼフェルの口から聞きたいのだ。 「あのよ。その…昨日は、心配かけちまったみてーだからよ、その、なんだ…。わ、悪かったな…」 「いいんですよ、ゼフェル。皆、あなたの事が好きでやったことなんですからね?」 「っ!!」 「…おやぁ? 顔が赤いよ、ゼフェル?」 「っ!! き、気のせいだっつーの!!」 「ふ〜〜ん? また私はイイ事があったのかと思ったんだけどねえ?」 ニヤニヤと何か妖しく含んだ笑みを浮かべるオリヴィエに、ゼフェルはギクッと心臓が動くのを感じた。 「ランディと話をしたのでしょう、ゼフェル?」 「ああ、まあな…」 「想いは通じましたか?」 「!!」 ゼフェルは真っ赤になって無言で頷く。 「そっかー、ああ、良かったねえ☆ 私達、本当に心配してたんだよ?」 「ええ、うまくいって本当に良かったですねー。私も心配で心配で、夜も眠れませんでしたからねー」 うんうん、と嬉しそうに頷きながらオリヴィエの方を見遣る。 「ちょっとっ!! ルヴァが眠れないのはそうじゃないでしょっ!!」 オリヴィエは真っ赤になりながらルヴァに食って掛かる。 「しょうがないですよねー、オリヴィエも悪いんですから」 「ルヴァっ!!」 何だかよくわからないままぼーっとその様子を見ているゼフェル。 「…なあ、何かいつもと違うのな、オメーら…」 「? そんなコトないでしょ。いつもこんなんだけど?」 「…そーか?」 何だかルヴァがいつもよりエロい顔に見えたのは、俺の気のせいか…? 「あ。そうだ。オリヴィエ、さっきの証しがどうとか…。アレ、どーゆー意味だよ?」 「さっきのとは、何のことですか? オリヴィエ」 その場にいなかったルヴァが興味深々に聞いてくる。 『キスマークのコトだよ、昨夜ルヴァが私に付けたヤツ…ゼフェルに気付かれたの』 小声で答えるオリヴィエにルヴァはなるほど、とゼフェルを見遣り頷いた。 その瞳には妖しい光が…。 「なーなー、何だよ? 教えてくれよ」 「ふふふっ。コレはね、さっきも言ったけど…愛のシルシだよ。誰が付けたのかわかるでしょう?」 「誰がって…。誰かがつけたのか? そんなところに? どうやって? つか、それ、虫刺されじゃねーのか?」 「…教えてあげましょうか、ゼフェル?」 「えっ…。あー、うん…」 ルヴァのいつもの笑顔が何かコワイぞ…。 「オリヴィエ、どこがいいですか?」 「えっ? もうあんまり残ってないんじゃない? これ以上見える所に付けるの、やめてよね?」 「でも今は見える所でないと…。オリヴィエがいいなら、私は構いませんけどねー?」 「むむっ…わかったよ。じゃあ、昨日と反対側でいいから。もう…」 「ええ、わかりました。では、いきますよー?」 と、ルヴァはオリヴィエの首筋に、ゼフェルの見ている前で吸い付いた。 「んなっっ??!! なっ…、何やってんだよ、ルヴァっ!!」 ゼフェルは驚いてしまって思わず叫んだ。 ちゅっと音がして、ルヴァの唇がオリヴィエから離れる。 「…何って。あんたが知りたいっていうから。…ホラ、私の首のトコ見てごらん?」 と、オリヴィエの首にかかる髪をルヴァが掻き上げ、ゼフェルにも見えるようにしてやる。 そこには、さっき見たモノと同じ紅い痕が。 「あーっっ?! そっ、それって…!!」 「「キスマーク、でしょう?」」 同時に答えるルヴァとオリヴィエ。 グラリ、と眩暈を感じたゼフェルは額に手を当て、ふらつく体を何とか抑える。 「やっぱり知らなかったんだねえ☆ ふふっ、自分だって同じモノ付けているクセに、さ?」 「…はあ?! 何言ってんだ?!」 「えっ?! 何? 本当に気付いてなかったの? …はあ、あんたってコは…」 「ゼフェル、洗面所にある鏡で自分の首のところを見てきてご覧なさい?」 「え…あ、ああ?」 素直にゼフェルはルヴァの言葉に従い、部屋を後にする。 「ふふふ、おもしろいねぇ☆」 「ええ、すごく楽しいですねー?」 二人の妖しい笑みで溢れる執務室。 すると。 「ぅぎゃ〜〜〜〜〜!!!!」 バタバタと元にいた執務室に駆け戻って来るゼフェルの足音。 首には掌で最初っから無防備に晒されていたシルシを隠している。 「なななな…っ、何でこんなモンが俺にもあるんだよ?!」 動揺はしていたが、辛うじて意識は引き留める事ができたらしいゼフェルの顔は可哀相な程に真っ赤になり、狼狽している。 「何でって…。ゼフェル、記憶に無いの?」 「変ですねー、それは?」 「な、何でだよ?」 「ゼフェルのそんな所にキスするのなんて、決まってんでしょ?」 「!!!!」 「あー、思い出したようですねー?」 「何か言ってなかったの? あのコは」 少し考え込むような素振りを見せるゼフェルを、心底楽しそうに眺めている二人。 「そーいや…何か、俺のモノだとかなんとか…」 「そういうこと☆ ランディもゼフェルの事が可愛くてしょうがないのね。…だから、シルシを付けたの」 「シルシ?」 「ランディがゼフェルを愛しているってことですよ? 本当はずっと自分の手元に置いておきたいんですけどねー、 現実はそうもいきませんからね。 その離れている間だけでも、自分の所有の証を残しておきたいんですよ。…変な虫が寄り付かないようにねー」 ゼフェルは恥ずかしさと嬉しさと怒りがちょっとだけ混じった気持ちに戸惑った。 「でもさ、良かったねよぇ、身も心も一つになれて、さ☆」 オリヴィエのとんでもない発言に、ゼフェルの沸点はいきなり頂点に達してしまった。 「バっ、バカヤローーー!!!!…つっ、繋がってるワケねーだろーがっ!!!!」 真っ赤になってそう叫ぶとゼフェルは執務室の扉を開けっ放しで飛び出して行ってしまった。 これもいつもの事なのだが、オリヴィエとルヴァは少々放心してその姿を眺めていた。 「…なーんだ」 「早とちりしちゃいましたねー」 「ま、あの奥手のゼフェルにキスマーク付けるなんて、ランディもやるねぇ…」 「ええ、しかも、昨日のうちにですからねー?」 「ね、ルヴァ。ゼフェルのアレ…。ジュリアスが見たら、何て言うんだろうね?」 オリヴィエの言葉に目を大きく見開いたルヴァは。 「是非、その場で見たいですねー…」 「…だよね☆」 二人は顔を見合わせ、くすくすと笑い合うのであった。 ☆back☆/☆小説部屋トップへ☆/☆トップページへ☆