ある日の午後。 いつものように昼食の時間を共に過ごした2人は、食後の安息を満喫していた。 「…オスカー、お茶のお替りは如何ですか?」 「ん…ああ、では貰おうかな」 「はい…では…」 リュミエールが席を立ち、くるりとオスカーに背を向け、カップに新しいお茶を注ごうとした時。 「…おい、リュミエール。背中に何か…長い糸みたいなのが付いてるぞ?」 「…え? 本当ですか?」 「ああ…」 オスカーはリュミエールの、背の丁度真ん中辺りに貼り付いている、長くて黒い糸を指で摘まんでみると…。 「…なっ?! コレ…髪、か?!」 「…は?」 素っ頓狂な声を上げるオスカーに、リュミエールも間の抜けた返事が出てしまう。 2人して、ソレをまじまじと見詰める事…暫し。 オスカーが糸だと思ったそれは、漆黒の艶やかな一本の長い髪。 誰の物であったかは一目瞭然だったが、オスカーは敢えてその人物の名を口にしなかった。 「…ああ、クラヴィス様の、ですね…きっと」 「…きっとも何も…その人しかいないだろう…」 「ふふ…そうですね」 「………」 オスカーは何やら不機嫌な表情で、指で摘んだままのソレを眺めている。 「…オスカー? どうしたのです…。そんなにクラヴィス様の髪が珍しいのですか?」 お茶の入ったカップをオスカーの目の前に置くと、リュミエールは再び席に着く。 「…お前、何時こんなのつけてきたんだよ」 「何時って…。午前中はクラヴィス様の所へお邪魔しておりましたから…その時、でしょうね?」 「へえ? 髪が付く程の近くで…何かしてたってワケだ…」 「オスカー? …ひょっとして…嫉妬、ですか?」 驚きと嬉しさ半分で、リュミエールも声が震えている(笑)。 「なーに言ってんだ。俺がそんな事する訳無いだろう?」 「………」 「な…何だ、その目は…」 「そうは聞こえませんでしたが…?」 「…気のせいだろ? 別に俺は何とも思っちゃいないぜ?」 「…そうでしょうね。オスカーはわたくしが何をしていようが、気にも留めないんでしょう?」 「…何でそういう言い方になるんだ」 「…違わないでしょう? 信用していると言えば聞こえはいいですが、結局は関心が無いという事と同じ意味を持つのでしょうね。 あなたにとって…わたくしはそれまでの存在なのですから…」 「な…っっ?! お…前なあ?!」 「…何だよ、文句あんのか?!」 「う゛…っ、何でそこで素に戻るんだよ…」 「どこで戻ろうが、俺の勝手だ」 「………」 「何だよ。言いたい事があるんならさっさと言え。…お前、変なトコで女々しいよな?」 「めっ?! お前、このオスカーを女々しいとは…!!」 「やかましいっつーの!! イチイチ叫ばねえと喋れねえのかよ。 お前、普段『俺はクールで熱い男だ』とか何とか抜かしてやがるクセして…只のガキだろ、俺から言ってみりゃさ…」 「ぬぬぬ…」 「ま…セックスの時も受けだしな…、女々しいのはしょうがねえよな? オスカー」 ニヤリ、と底意地の悪い含み笑いをオスカーに向けるリュミエール。 「…リュミエール、ソレはお前のせいだろう?!  俺が好き好んで受けになってる訳じゃ無いことは充分判ってて、言ってるんだな?!」 「へえ? そうか? …俺には喜んでいるように見えたがな…?」 「!!!!」 さっきの和やかな空気とは一転して、ものすごい険悪ムード漂ってしまっている。 何だ…? 今日のコイツはいつもよりも輪をかけて…機嫌が悪いな…。 コイツ怒らすと…後々面倒な事になるんだよな。 しかし…俺が悪いのか…?! 「…おい」 「…何だよ」 「…何でこんな話になったんだ?」 「…さあな」 「大体お前が…」 「オスカー!!」 ぴしゃり、とリュミエールがオスカーの言葉を遮った。 「は…はい?」 「あのな、ヤキモチならはっきりそう言えよ?!」 「…はあ?!」 「…お前があそこで素直に頷いてりゃ、それで済む話だろうが!!」 「……へー…え?」 「…何だよ?!」 「リュミエール…お前…」 「ああ?!」 「俺に妬いて欲しかったのか…」 「なっ?!」 「…そうかそうか…。お前も素直にそう言えばいいのになあ?」 「!!!!」 どこの世界に恋人に嫉妬してくれなんて、素直に言うヤツがいると思ってんだ?! 「……本気で…アホな男だな」 がくりと項垂れたリュミエール。 それにも気付かないオスカーは、何やら神妙な顔をして考え込んでいる。 「大体、お前いつも言ってるじゃないか」 「はあ? 何がだよ?」 「クラヴィス様の所へ行くと、いつも惚気か愚痴ばかり聞かされて、息抜きにもならないって…って言ってんのに、 何でまた行くんだよ?」 「…はあ?!」 「あんなにブーブー俺に文句言うくせに、何の用があってそんなしょっちゅう行く必要があるのかと聞いてるんだよ、俺は?!」 何だ…コイツ…。 流石、天然だけあるっつーか…。 バカな子程可愛いっつーか…。 堪んねえな…。 「……(笑)」 「おい、何でそこで笑うんだ?! 気色悪いヤツだな…」 「…何とでも言え」 「…おかしなヤツだな…、頭でも打ったか…?」 首を傾げるオスカーを、嬉しそうに見詰めるリュミエールであった…。 ♪おまけ♪ 「で? 何してたんだよ、クラヴィス様の所で?!」 「…知りたいのか?」 「だから聞いてるんだ!!」 「…あのな、いつも言ってんだろ? 俺とアイツは互いに本性を知ってるから、それだけで息を抜ける相手なんだよ。 オスカー、まだアイツとの仲を疑ってるのか?」 「………」 「俺もアイツも攻め以外、無理な人間だからな。安心しろ」 「!!」 「それに今日…帰ろうとした時、自分の裾をうっかり踏んだまま立ち上がって転びそうになったのを、抱き抱えられたんだよ」 「へ?」 「恐らく…その時にでも付いたんだろ、その髪は」 「………」 「何だよ…その笑いは?!」 「お前…意外に抜けてる所、あるんだな…」 「!! う…うるせえな…」 「あれ? 赤くなってるぜ?」 「………」 「おい、怒るなって…」 「…お前、今夜は覚悟しろよ…?!」 「は?!」 「折角人がいい気分だったのを、お前が自分でぶち壊したんだからな…?!」 「な…何の…事だ?!」 「ふ…、散々鳴かせてやるからな…楽しみにしておけ…」 「?! リュ…リュミエール?!」 あーあ(笑)。 あとがき: リュミオス、如何でしたでしょうか? まあ、ヤキモチも愛情度を量る大事な要素ではありますが、何事も行き過ぎたものは返って逆効果にもなり得るので、 難しいところですよね。 オスカーも相変わらずリュミエールに対してだけ、鈍くて天然な男に成り下がってますし(笑)。 こういうのも豆田の中では萌えなんですけど、皆様はどうですか? やっぱ、ダメ…?! 05/11/12 ☆back☆/☆小説部屋トップへ☆/☆トップページへ☆