…困りましたねー。

こんな時、何と言ってあげれば良いのでしょうか…?

私に出来る事なら何でも力になってあげたいのですが…。

しかし、何故私にこんな事を…?

私よりももっと的確なアドバイスが出来る人が居ると思うのに、どうして私だったのでしょうか。

ああ、そんな事より…。

この相談内容に対し、私はどう答えてあげればよいのでしょう?




ルヴァの困惑の理由。

それはここ、ルヴァの執務室で菫色の大きな瞳を潤ませている少年、マルセルだ。




30分程前―――――。



ルヴァの執務室の扉を弱々しくノックする音がした。

ちょうど調べ物をしていたルヴァは資料から顔を上げ扉へと向かう。



「はい、どうぞ?」



扉を開けると、俯いたマルセルがそこに立ち尽くしていた。



「おや、マルセル、いらっしゃい。今日はどうしました?」



普段の元気な挨拶が聞けるものと思っていただけに、声を掛けても何の反応も示さない彼に、ルヴァも首を傾げる。

よくよく見れば、マルセルの様子がおかしい事に気付いたルヴァ。

恐らく最初から泣いていたのだろう。

ただ、我慢していただけだったのだ。

そして、とうとう堪え切れなくなった嗚咽が、マルセルから漏れ出したのだ。



「マルセル…何かあったのですか? ああ、ここではなんですから…さあ、早くお入りなさい」



ルヴァの言葉に弾かれたように身体を僅かに震わせると、マルセルはゆっくりと頷いた。

安心させるようにマルセルの肩をそっと抱き、共に執務室内へと入った。

先程までルヴァが書類作成に追われていた名残りで、本やら資料で一杯になってしまっていたソファーの上を慌てて片付けると、そこにマルセルを座らせた。



「今、お茶を淹れますからね、少し待ってて下さいねー?」



なるべく普段通りの態度を務めるルヴァ。



「ああ、それから。これをお使いなさい。袖が濡れてしまいますからねー…」



まだ零れ落ちる涙を服の袖で拭っているマルセルの、握られた拳をそっと開いてそこにハンカチを持たせた。



「……はい」



すみません、と小さく呟かれたマルセルに柔らかく微笑むと、ルヴァはお茶を淹れる為に執務室の奥へと向かう。

何故あんなにも思い詰めた様子に至ったのか、気になる事はあったが今は彼の気を落ち着かせる事が先決である。

以前マルセルが美味しいと言ってくれた、玉露を丁寧に淹れるとルヴァは再び彼の元へと戻った。



「はい、どうぞ。器が熱いから気をつけてくださいねー」



ルヴァは淹れたてのお茶を、マルセルの前にそっと置いた。

温かい湯気が湯飲みから立ち昇り、それと共に緑茶の甘い香りが漂う。

自分の分もテーブルに置き、マルセルの向かいに腰を下ろすルヴァ。

それを気配で感じたマルセルが、小さな声で礼を言った。



「…すみません。ありがとうございます、ルヴァ様」

「いいえ、いいんですよ。丁度私も休憩しようと思っていたところでしたし、マルセルが訪ねてくれて良いきっかけになりましたから」



ルヴァの気遣う言葉に、マルセルは弱々しいながらも、笑顔を見せた。

それにルヴァも柔らかい微笑で応える。

さっきよりはマルセルも少々落ち着いてきた様だ。

二人は暫し、お茶を黙って飲んでいた。

ルヴァはマルセルから話す気になるのを待った。

何かとても言い辛い事なのだろう。

そんな事を考えていると、再びマルセルの瞳にじわり、と涙が滲み出す。

それに気付いたルヴァだったが、何も言えずに見守るだけしか出来なかった。

自分から聞いてやるべきか、否か。

下手に刺激して、マルセルを傷付けてしまう訳には行かない。

最初からこの思い詰めた様子に、ルヴァが躊躇うのも仕方が無い事だった。

そんな彼の思いとは別に、意を決した様な表情をしたマルセルに、ルヴァは次の瞬間ソファからやや乗り出す体勢の彼に対峙する事になった。

マルセルは息を深く吸うと、ゆっくりとルヴァの方に向き直る。



「ルヴァさま、僕、ご相談したい事があるんです…」

「ええ、何でしょうか? 私で良ければ、話して下さいねー?」



するとマルセルは俯き掌をぎゅっと握り締め、再び黙り込んでしまった。



「…もし話し辛いのなら、今日でなくとも良いのですよ? あなたの心が落ち着くまで待ちますから。私はいつでもここに居ますから、ね?」



ルヴァは言いよどむマルセルを気遣い、そう言った。



「いいえ!! いいんです!! でも…」



一瞬、ルヴァはマルセルの勢いに驚くが、またしても黙り込んでしまう姿を心配そうに見詰めている。



「ルヴァ様…? あの、これから僕の話を聞いて、僕を軽蔑しませんか…?」



それはひどくか細く、怯えた声でマルセルが必死に尋ねる。



「軽蔑だなんて…、そんな事する筈ありませんよ、マルセル。どんな事であろうと、あなたにとってとても大事な悩みですからね。私はマルセルの力になりたいのですよ…?」



ルヴァの言葉にほっとしたのか、漸くマルセルに笑みが戻る。



「ありがとうございます、ルヴァ様…」

「いいえー。…それにしても随分と悩んでいる様ですねー?」

「はい…、実は…」



漸く話し始めるマルセルをルヴァは見守る。

自分の湯飲みに手を伸ばし、お茶を一口飲もうとしたところへ、マルセルの話が始まった。



「あの、僕、ずっとされる側だったんですけど、して貰うだけじゃ我慢できなくなっちゃって…自分からもしたいと思う様になってしまったんです!!」



マルセルの言葉を聞いたその瞬間。

ルヴァは口に含んだお茶を、嚥下する前にブッと吹き出してしまった。



「ああー、す、すみません! マルセル、大丈夫でしたか?」



マルセルはそんな慌てたルヴァには気にも留めず、更に続ける。



「でも…自分からするのって、ちょっと抵抗があるっていうか、…恥ずかしいっていうか…。一人でする練習もしてみたんですけど、やっぱり上手く出来なくて…」



事も無げに言うマルセルに、ルヴァは真っ赤になって吹き出してしまったお茶の後始末をしている。

そして更に、この衝撃的な告白。



「あっ、?! あの、…マルセル?」



ルヴァはもう何が何だか判らなくなってしまっている。

顔は赤くなるわ、青ざめるわで、何やら忙しい。



「…こんな事思うなんて、おかしいですよね…。でも僕、こんな気持ち初めてなんです…。教えて下さい、ルヴァ様?! 僕、どうしたらいいんですか?」



ぐい、と乗り出して問うマルセルの表情は、正に必死だった。

衝撃的ではあるけれど、少なくともマルセルには思い詰めてしまうほどの大問題なのは、間違いないのだ。

どう答えて良いものやら、頭の中で言葉を探すのだが、生憎彼の許容の範疇を超えてしまっているらしい。

それに対する、適切な言葉が見付からない。

じっと見つめられてしまい、更に言葉に詰まるルヴァ。



「えっ…と? あ、あのですねー…」



しどろもどろになってしまっているルヴァ。




私は今何でこんな話を聞いてるんでしょう?

そして、私は何て答えてあげればいいんですかねー?

でもマルセルは本気で悩んでいる様ですし、ここは私も真剣に応えてあげなければいけませんし…。


ああー、ど、どうすれば…?!



「…やっぱり、おかしいですよね、僕…。男なのにお化粧されて嬉しいって思うなんて…」



マルセルは涙が溢れるのをそのままにしていた。

濡れた睫毛を何度も瞬かせ、拭う事も忘れた涙が幾つもマルセルの頬を滑り落ちてゆく。

その様子をスローモーションの映像を見ているようだと内心感じつつ、ぼうっと眺めていたルヴァがやっとの事で訊き返す。



「…はい?」



ルヴァの表情はなんとも微妙なモノである。

耳には入っているのだが、半分理解しかねている顔だ。



「お化粧、ですか…?」

「? …はい、そうですけど…?」



マルセルは首をかしげ、不思議そうにルヴァを見つめている。

一方のルヴァは、ほ―っと長い溜め息を吐いた。

胸に手を当て、心底安堵したような仕草に、マルセルはぽかんとしている。

さっきまで溢れていた涙はすっかり止まり、真っ赤になってしまったマルセルの瞳に見つめられ、ルヴァの意識が少しずつ戻ってきた。



「ああー、生きた心地がしませんでしたよ…。でも…、そうですか。お化粧の事でしたか…」

「あ、あのう? …ルヴァ様?」



ルヴァは一体何をそんなに驚いていたのか、彼の様子にマルセルの顔ははてなマークが幾つもついているようだった。

そんなマルセルに、恥ずかしそうに微笑むと、ルヴァは静かに語り出した。



「私はね、マルセルのしたい事をすれば良いと思いますよ? あなたにとても似合うと思いますし、オリヴィエもいますしねー。彼も喜んで力になってくれるでしょうし、少なくとも私はおかしいとは思いませんよ…?」

「ほ、本当に?」 

「ええ、上手に出来る様になると良いですね?」



優しく微笑んだルヴァの言葉にやっと安心したのか、マルセルは漸く何時もの 可愛らしい笑顔を見せた。

自信が持てたのか、その笑顔は眩しいほどに輝いている。

ルヴァもそれが嬉しくて、自然と更に頬が弛む。



「はい、僕、ある人にキレイだって言って欲しくて…。でも、自分からするのは勇気が出なくて。誰かに大丈夫って言って欲しかったんです。ルヴァ様、本当にありがとうございます!!」



マルセルは来た時とはうってかわって元気を取り戻し、一礼するとあっという間に執務室を後にした。





























一人室内に残されたルヴァ。

何とも言えぬ脱力感が、彼を襲っていた。

溜め息混じりに一人、呟いていた。



      「…はあー。私は、勘違いしていたのですねー…」



苦笑いを浮かべ、気を取り直すとやりかけていた調べ物を再開すべく、立ち上がった時、再びノックをする音が聞こえた。

主の返事を聞くのを待たず、その人物は扉を開ける。



「よう、ルヴァ、いるんだろ? ちょっと聞きたい事あんだけどよー」



勝手知ったるルヴァの執務室に入って来たのは、彼の恋人であった。



「あ…ああ、ゼフェルでしたか」



何故か緊張から解放されたように、ほっと胸を撫で下ろすルヴァを不思議そうにみているゼフェル。



「何だ? 何かあったのか?」

「ええ、たった今ですねー…」



先ほどのマルセルとのやりとりをゼフェルに話して聞かせる。

ルヴァはソファーに腰掛け、ゼフェルはルヴァの執務机に寄りかかる様にして聞いてる。



「…私は変に勘違いをしていたのですが、それは驚きましたよー? マルセルもそういう歳頃になってしまったのだと、知らない内に大人になっていたのだと思うと…。本来は喜ばしい事なのでしょうが、あの時私は正直、複雑でしたねー…」



クツクツと笑いを堪えていたゼフェルがルヴァのその言葉で、突然真顔に戻る。



「…ゼフェル?」

「何言ってんだ、おめー? マルセルのヤツ、とっくの昔から恋人いるぜ? …つーか、知らねーの、ルヴァ位だろ」



コク、とルヴァの息を呑む音が聞こえる。



「…やっぱな。おめーってホントに…」



思ったとおりだと、苦笑するゼフェルを、唖然とした表情で眺めているルヴァ。

ゼフェルは机から離れ、ルヴァのいるソファーまで歩み寄る。

近付いてくる恋人をまだぼんやりと眺めるルヴァを気にする事無く、ゼフェルはソファーの肘掛けの部分に座り、ルヴァの顔を覗き込む。



「まさか…オレがおめーに惚れてるってのも、気付いてねーなんて言うんじゃねーだろーな?」



至近距離で言われた言葉に、ルヴァは咄嗟に反論する。



「いえっ…、それはっ…!」



頬を赤らめ慌てふためくルヴァを見てニヤリ、と満足そうに笑うゼフェル。



     「そっか? …んじゃ、いーや」



ゼフェルはそう言うとルヴァの唇をちゅっ、と掠めて行った。



「ゼ、ゼフェル?!」



突然のキスに驚いて、思わず唇を押さえながらルヴァが抗議の声を上げる。

そんなルヴァには目もくれず、相変わらずの近過ぎる距離で、囁かれる。



「おめーはほっといたら何すっかわかんねーし…。どーしよーもねー程天然でニブイだろ? オレとしては心配してんだよ、コレでもな」



真剣な表情ではあるが、何気にひどい事を言われている気がする…。

ルヴァはあんまりだと、少しだけ眉間に皺を寄せた。



「…ひどいですねー、ゼフェル。私はこれでもあなたより歳上なのですよ?」

「歳食ってるだけで、実際肝心なトコは抜けてんじゃねーか」

「うっ…。な、なんてことを…」



ルヴァは顔を赤くして、たちまち瞳には薄く涙を溜めている。

酷い言われようにルヴァが反論できず、ふるふると震えているのに気付いたゼフェル。


「ああ、ワリィ。言葉が足りねーよな、コレじゃ」



宥めるようにゼフェルはルヴァを抱き締め、その瞼に優しくキスを落とす。

ぽんぽんと優しく叩かれる背中が、ルヴァの気持ちを少し軽くする。

こつん、と額同士を合わされ、熱っぽくゼフェルが言った。



       「心配ってのはホントのコトだよ。…なあ、オレのコト、好きか…?」



真っ直ぐ自分を見つめる、真紅の瞳。

全てを見透かされてしまうかの様なこの瞳が、ルヴァは好きだった。

自分を見つめる時にだけ、それは熱を持ち濡れ光る。

いつもの少年ではなく、色気を放つ、男の瞳だ。

ルヴァは恋人のその瞳を見つめながら、柔らかく笑う。



「…ええ。もちろん、愛していますよ…?」



そう言って、ルヴァの方からキスをする。

触れるだけだったキスを数回繰り返すと、今度はゼフェルがルヴァの後頭部の辺りを支え、彼の口を開けるよう唇で促す。

ゆっくりと開かれたルヴァの口内に、待っていたようにゼフェルが深く舌を差し入れ絡めてゆく。

徐々に激しさを増す行為にゼフェルの手に力が入り過ぎたのか、ルヴァのターバンが少しズレ、解けかけてしまった。



「「…あっ」」



唇が離れ、二人同時に声を上げた。

ルヴァが慌ててターバンを直そうとするその腕を掴まれ、驚いてゼフェルを見る。



「…ゼフェル?」

「ヤベェ…。ガマン、できねー…」

「はい?」

「ソレ、外れかけたの見たら…堪んなくなっちまった」

「ええ…っ?! …んむっ、ぅんっ…ん、ん…」



叫びかけたルヴァの唇をキスで塞がれる。

同時に執務服の上からゼフェルに身体を撫でられると、途端にルヴァの身体から力が抜けて行ってしまう。

その掌は力強くて、けれど優しくて、ルヴァの総てが愛しいと語っているようで。



「なぁ…、ダメか?」



さっきより熱い瞳で問われる。

ああ…もう、ダメだ…。

この瞳に…流されてゆく…。

もうルヴァに抗う事なんか出来る筈が無い。

瞬時に全身が痺れたように反応してしまうのを、止める事なんか出来やしない。



「…ルヴァ?」



焦れたゼフェルが、窺うようにルヴァの顔を覗き込む。

合わせられた視線に弾かれたように、ルヴァが身体を震わせた。

腕の中に納まっているルヴァの頬は赤く染まり、自分を見つめるその瞳はもう潤んでしまっている。

我慢出来ないと言ったゼフェルの言葉は本当で、そんな視線で見つめられてしまっては更に彼の熱が高まってしまう。

堪らずにルヴァの答えを待つ間も無く、再び彼に口付けたゼフェル。

逆らう事無くその唇に応えるルヴァが愛しくて、次第にその行為にも激しさを増してゆく。

二人を阻むこの服がもどかしいと言うように、強い力でルヴァの身体を撫でてゆくゼフェルの手に、煽られているのがわかる。

離れていくゼフェルの唇をじっと見つめながら、ルヴァは少し荒くなった吐息を交えた声で、小さく彼に囁いた。



「…鍵、閉めて来て下さい…」



潤んだ瞳はもう少しで零れそうな涙を湛え、艶かしい色気を放つルヴァにゼフェルがごくり、と息を呑んだ。

しかし次の瞬間にはまた熱を孕んだ瞳に戻り、ゼフェルはルヴァの視線から離さずに言った。



「…さっき入って来た時、閉めた」



悪戯っぽくニヤリ、と笑うゼフェルを驚きの目で見つめる。



「…最初からそんなつもりで来たんじゃねーからな、言っとくけど」



少々クチを尖らせて弁解するゼフェルに苦笑しながらも、ルヴァはゆっくりとターバンを外してゆく。

その様をじっと見つめる、ゼフェルの視線が熱い。

愛しい恋人だけに見せるこの行為が、ルヴァにとって幸せを感じる瞬間でもあると同時に、何時まで経っても恥ずかしさが抜けない。

この長いターバンを外すのを見ているのが、好きだと言ったゼフェル。

彼にとっても特別な事であるのは間違いない。

解かれたターバンが床に着きそうになる前に、何時ものようにゼフェルがそれを巻き取ってゆく。



「ええ…わかっていますよ? ゼフェル…」



   ルヴァが全てを外し終えると、ゼフェルは巻き取ったターバンを脇に置き、優しく彼の髪の中に手を差し入れ、もう片方の掌で頬を包み、啄ばむようなキスをしてゆく。

何度も、何度も、それは繰り返される。

幾らしても、し足りないと、彼の唇が語る。

それはルヴァも同じで、唇が離される合間さえもどかしく思える。



「執務中にこんな事…、私がするなんて…」



ぽつりと、呟かれたルヴァの言葉に、ゼフェルからのキスが止まった。



「…何だよ、ヤなのか?」



ゼフェルがムッとしてルヴァの両肩を掴み、問い詰める様に聞いた。



「ふふ、違いますよ。そうではなくて、私がこれ程人を愛する事ができるなんて、思ってもみなかったと言ってるんですよ。ゼフェル、あなたを…ね?」



ゼフェルは目を見開きながらも頬を赤く染め、嬉しそうにルヴァに何度もキスをする。



「オレも…。何でこんなにおめーに惚れちまったかなぁ…」



愛おしそうにルヴァの髪を撫で梳きながら呟く。

甘い響きを含んだ声音と、同じく労わるような愛撫。

恋人から与えられるその優しい感触に、ルヴァの瞼がそっと下りる。



「私達は、お互い捕えられてしまったのですねー…」

「…ぜってー逃がしてやんねーからな、カクゴしとけよ?」



ゼフェルの言葉にクスリ、とルヴァが笑う。

その反応に憮然とした声でゼフェルが即座に抗議する。



「何だよ、何がおかしいんだよ!?」



本気で怒っては居ないものの、恋人の機嫌を損ねてしまったかと慌ててルヴァは首を横に振る。



「私の方こそ…。浮気したら、許しませんよ…?」



ルヴァの視線よりほんの少しだけ下にある、ゼフェルの瞳を見つめながら囁いた彼のそれは、この先の行為を期待しているかのように潤み、そして極上に艶かしくて。

己の忍耐もそろそろ限界を訴えているのを、ゼフェルは自覚していた。



「うっせーな、オレがんなコトすっかよ…」



僅かに視線を逸らし、拗ねたように尖らせた唇はそんな事を告げる。

その様子に口元を緩め、何かを言おうとしたルヴァの、ゼフェルはその瞬間を逃さなかった。



「もう、黙っとけよ…!」



ゼフェルはルヴァの言葉が発される前に、彼が吸い込んだ息ごと奪う様に深く激しく口付けをしてゆく。

その合間にルヴァの腕はゼフェルの背中に回され、しっかりと抱き締める。

鼻から無意識に漏れる吐息と、衣擦れの音。

そして、ゼフェルがルヴァをゆっくりとソファーに押し倒し、その衝撃で軋んだ音さえ、二人の欲を煽ってゆく。

折り重なって沈み込んだソファーの上で、ゼフェルがキスを止める。

伏せたままのルヴァの瞼の隙間から、じんわりと滲む涙をゼフェルがそっと指で拭う。



「…ゼフェル?」



それは先程までの貪るような口付けとは違い、またそれ以上の事を進めようとはしないゼフェルに、どうしたのかとルヴァが問うた。

薄っすらと瞼を開いたルヴァの視界から、じっと自分の顔を見つめている恋人の視線とかち合う。

あくまでも優しい色を湛え、柔らかな微笑を浮かべたゼフェルの表情に、ルヴァの頬が自然と赤く染まってゆく。

何とも言えない恥ずかしさと、嬉しさと、くすぐったいような感情がない交ぜになる。

何か言おうとするのだが、その言葉が見付からない。

そんな事を考えながらも、ゼフェルの視線からもまた逸らす事が出来ない。

それでも自然にルヴァの口から、恋人の名が呟かれた。



「ゼフェル…」



頬を染め、はにかむ態度を見せた恋人に、ゼフェルが破顔する。



「ゼフェ…」

「…愛してるぜ、ルヴァ」



それはとてもとても、小さな声で。

それなのに、ルヴァが言いかけた言葉を遮るのには、充分なほどで。

真っ赤になって、真剣に見つめてくるゼフェル。

同じ様に真っ赤になって、驚いて声も出せないルヴァ。

『惚れてる』とか、『好きだ』とは言われていたが、『愛してる』の言葉は、今まで聞いた事が無かったルヴァ。

言って欲しいと思うこともあったが、ルヴァも促すような言葉は一切言わなかった。

彼の性格を考えれば、ただ照れ臭いだけなのだとわかっていたから。

だが。

あんなに恥ずかしがって、言おうとしなかった言葉を、今この瞬間に突然こんな、さらりと言われるなんて。



「…ずるい、ですねー…」

「おめーが前から言って欲しそうなのは知ってたけどよー…。何か、今、無性に言いたくなっちまった」



にっと、照れた笑顔を見せるゼフェルに、ぎゅっと胸を掴まれた気がした。

ゼフェルの背中に回したままの腕を素早く首に絡め、いきなり引き寄せてルヴァの方から彼の唇を奪う。

驚きと戸惑いの色を見せたゼフェルの瞳も、何時に無く積極的な恋人の行為を歓迎するように、その口付けに応える。

まだ執務時間中なのに。

もう、止められない。

お互いに火を点けあってしまった。

地の守護聖の執務室には、愛し合う恋人の甘い空気だけに満たされる事となった…。



















       あとがき


うわわわわわ〜〜〜!!!!

なんじゃい、コラ?!


修正にものっそい時間掛けたにも拘らず、何じゃこのトホホな話は?!



…大変失礼致しましたm(_ _)m


元の話はコレよりもっと短く、最悪な話だったのです(汗)

相当言葉を変え、付け足したのに、どうしてこんなアフォな話になるんだよ…(涙)

嘘でもいいからもっとマシに見せる事、出来ないかなあ?

あ、でも嘘じゃ意味ないか(笑)


ゼフェルヴァに投票して下さった方には大変申し訳ありませんでしたm(_ _)m

元の話を載せようかとも思ったのですが、そこまで豆田は勇気が出ませんでした(苦笑)

オンライン上には存在しませんが、もし読みたいという奇特な方がいらっされば、墓場を作ってパス制にして公開しようかなあ。

あああ…、でも、それもものっそい勇気が要るなあ(涙)

感想、ご要望、墓場希望等のコメントは、メルフォか掲示板にてお待ちしておりますm(_ _)m

ココまで読んでくださり、ありがとうございます!!



07/04/10 大幅に加筆修正(笑)









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