好きな人の事を考えている時間って、好き。 今度逢う時は何を着ていこうかとか、2人で何処へ行こうかとか、考え出すと止まらなくなるんだ。 お互い忙しいし、普通の人とは違う生活をしているから、逢いたくても思うように逢えない時もある。 彼も僕に逢いたいと思ってくれてるかな、とか想像するのも楽しくて、少し恥ずかしい。 何よりこういう時間が前よりも『好き』って言う気持ちを大きくしているような気がするんだ。 だって、好きな人の事を考えるだけで、すごく幸せな気持ちになれるでしょう? だけど。 逢いたいのが更に強くなっちゃうのが、辛くもあるんだよね…。 ずっと一緒に居たいけれど、離れてる時間も大切なんだと思う。 頭ではわかってるんだけどね。 僕ももう子供じゃないし。 …わかってるんだけど、ね。 ***** ずっとこの休日を楽しみにしていたのに。 彼に逢ったら、この気持ちを何て言おうかと思っていたのに。 …まさか、『キライ』なんて言う事になるとは、思ってもみなかった。 ただ2人で居られるだけで幸せだと思ってたのは、僕だけだったんだろうか…? 今日は何だか彼の様子がおかしかったんだ。 部屋に入るなり、急に僕を抱き締めてくるから、それは僕も嬉しかったんだけど…。 話したい事もたくさんあったし、彼の話も聞きたかったし。 でも僕が話そうとしても、それはすぐに彼のキスで有耶無耶になっちゃったんだ。 ま、言ってしまえばコレもいつもの事なんだけど…。 だけど僕が嫌がったらちゃんと止めてくれてたし、今日もそうだと思っていたのに、そうじゃなかった。 あっという間に服は脱がされちゃってて、彼の執拗な愛撫の手は止まる気配が全くなくて。 僕の頭はビックリしたのと、止めてくれない彼の事がわからなくなって、思わず叫んじゃったんだ…。 逢う度に身体を求められるのも、いつも通りなんだ。 あ…それがイヤなんじゃないよ? ただ、話をしたかったんだ。 何もしないで、ただギュッと抱き締めて欲しい時だってあるでしょう? だけど、いつも僕は流されちゃうんだ。 僕だって彼としたくないわけじゃないし、そう訊き返されてしまえば、僕には上手く説明出来なくて。 普段はそうでもないのに、こういう時だけ真面目に僕の話を聞いてくれない彼も、結局流されちゃう僕も、 たまにキライだと思ってしまう。 『キライ』って言葉は相手を傷付けるだけじゃなくて、自分の心にも刺さって返って来るから、本当に怖いと思う。 出来れば言いたくないし、聞きたくない言葉。 言葉は時として現実の肉体に与える痛みより、遥かに大きくて深いダメージを負わせる事だって出来ちゃうから。 …わかってるつもりだったのに。 僕の口から咄嗟に出てしまったのは、言っちゃいけない言葉だったんだ。 『レ…レオナードのバカっ!! もうキライ!!』 『っ!! …そうかよ。ンじゃ、勝手にしろ!!』 *** しまった。 そんな表現がぴったりだった。 だって、そんな事思ってもないのに、言ってしまったんだ。 でも。 彼は僕が嫌がっているのを本気に捉えてなかったみたいで、一向に止めてくれなかったから。 何て言えばわかってくれるだろうとか、考える余裕なんて僕には無かったんだ。 ピク、と顔を強張らせ、僕の上からさっさと退いた彼は、脱がされてその辺に放られていた僕の服を拾うと、 僕の身体に投げて寄越してきた。 『さっさと着ろ。目障りなンだよ』 『え…』 目障り…僕が…。 僕を脱がせたのは、彼なのに。 僕が『キライ』って言ったから、『キライ』になっちゃったの…? 言わなくちゃいけない事が何一つ、僕の口からは出て来なかった。 彼は僕に背を向けたままで、こっちを見ようともしない。 ああ…。 そうだった…。 言葉には、現実に変える力も持っているって、聞いたっけ…。 『…ふっ…』 変に納得してしまった僕は、自分の膝にある服を握り締め俯いたまま、思わず笑ってしまったんだ。 彼の言葉が痛くて、こんなにも苦しくて、辛いのに。 僕はおかしくなっちゃったんだろうか。 そう考えてたら、服の皺が段々とぼやけてきて、よく見えなくなってきた。 そしてその服の上に落ちてきた小さな衝撃が素肌に伝う。 そこをじわりと湿らせてゆくものが、いくつもいくつも。 『…笑ってンのか、お前?!』 驚きと怒りが混じってるのがはっきりと感じ取れる彼の声。 そしてその声の位置から依然として、彼と僕の距離も縮まっていない事もわかった。 『…大した余裕だよなァ、お前。俺様と別れられて、嬉しいってのかァ?!』 そのすぐ後、聴こえてきた彼の舌打ち。 ああ…。 また、怒らせちゃったんだ。 今まで何度かケンカした事はあっても、『キライ』なんて言ったのは初めてだから。 いつもより怒って、当然だよね…。 僕だって、彼に本心じゃなかったとしても、そんな事言われたら…。 もう…何でこんな事になっちゃったんだろう…。 何か…何か、言わなくちゃ…。 混乱する僕の頭は、一生懸命そう命令を出すのに。 僕から出てくるのは、涙だけだった。 *** 『オイ…何とか言えねェのか?!』 すごく苛ついた声で彼にそう言われたけど、もう僕は何も言えない状態だった。 泣いてるのを気付かれないようにしているのは僕なのに、それに本当に気付いてくれないレオナードは酷いと思ったりしている。 何が何だかもう、僕の頭の中はぐちゃぐちゃで。 言葉なんて思い浮かぶ訳がなくて。 床にへたり込んで、俯いたまま微動だにしない僕に、彼の足音が近付いて来た。 『っ…!!』 『マルセ…?!』 グイっと思い切り腕を引かれ、涙でぐしょぐしょになった僕の顔を見て、彼が驚いて息を呑む音が聴こえた。 それだけ…聴こえたんだ。 既に僕の目は涙で何も見えなかったから。 彼がどんな表情で僕を見ているのか、わからなくて良かったと思った。 僕を嫌いになってしまった、彼の瞳を見るのは怖かったから。 『な…お前、泣いて…?!』 彼が力無くそう呟いたのと同時に、僕の涙を彼の手が拭う。 その手はいつもの彼の手と変わらない、温かくて優しくて、ただそれだけでまた涙が込み上げてくる。 拭っても拭っても、僕の目からは止め処なく流れる涙でキリがなくて。 『あァ…ダメだな、こりゃ…』 …うん。 止まんないんだ。 彼もそう思ったらしく、溜め息と一緒に呆れたような声が返ってきた。 『…わかった、思う存分泣け!!』 『………?!』 てっきり僕は、放って置かれるんだとばかり思ってた。 なのに…。 僕は、彼に、抱き締められていたんだ…。 *** 『…どうよ、落ち着いたか?』 『………ん』 漸く僕の涙も渇いてきた頃、彼が尋ねた。 あれからずっと僕の頭を撫でていてくれた彼の掌が、僕の頬を包み込んで、確認するように親指で目の縁をなぞった。 それが少し擽ったくて、僕は思わず目をキュっと瞑ってしまった。 『どうしたンだよ、今日は?』 怒る訳でもなく落ち着いた声音で、彼は不思議そうに訊いてくる。 さっきの事を思い出し、急に恥ずかしさが込み上げてきた僕の頬が、途端にカーっと熱くなるのを感じた。 『おォ?! 赤くなったなァ?』 『あ…あのね…』 『ン?』 『あれは…嘘だから…』 『…はァ?』 見つめ合い、お互い黙り込む事暫し…。 『さ、さっきの…僕の言った事、あれ…違うから』 『あァ…、キライって言ったヤツか?』 『う…うん…』 …また言いたくないから、避けたのに。 そんなはっきり言わなくてもいいじゃん…。 『ンな事位わかってるってェの…』 『………え?』 『あのなァ…、俺様はそんなにアホに見えてるか?』 『ちが…、そうじゃなくて…』 『それじゃ何か? お前は自分で言ったのを気にしてたのか?』 『だ、だって…!!』 『何だよ』 『レオナード…僕の事、目障りだって…』 『あ…アレはな…』 『自分で…無理矢理、脱がせたくせに…っ』 『オ、オイ?! また泣くなよ?!』 『んぶっ…?!』 慌てた声でそう言うと、彼はまた僕をギュッと抱き締めた。 僕の顔は彼の胸に押し付けられて、変な声が出ちゃったけど…本当はすごく嬉しかったんだ。 『…アレは俺の言葉が悪かったンだよなァ…』 『…え?』 『お前が嫌がるから止めたけどな…もうお前は素っ裸だし、かと言ってだなァ…』 『な、何?』 『また着せる気にもなれる訳ねェだろうが。お前に触れればまた止めてやれる自信もなかったからな…』 『え…、え…っと…?』 『だからァ!! 俺様の目の毒だから、早く着ろって意味だよ!!』 『………』 何、それ。 誰が脱がせたと思ってんの? 僕は彼の胸から顔を上げ、まじまじと彼の赤い頬を眺めていた。 僅かに僕から顔を横に逸らし、僕からの視線に堪えているって感じ…。 『レオナー…』 『大体なァ、お前が悪いんだぞ?!』 『…はあ?!』 『俺様だって最初からサカってる訳じゃねェっての』 『…な、何?』 『お前がそういうつもりじゃなくても、だ。のっけから事ある毎に抱きついたり、キスしてきたりするからだなァ…』 『あ…だ、だって…』 『それじゃなくても我慢してンだからな!! 煽るお前が悪いンだよ!! 大体今日だってよォ…』 『が…我慢?』 『お前に逢えない間、何回抜いたと思ってンだ…』 『ぬっ…?! な…な…?! 何言ってるの、レオナード?!』 『…お前は平気なのか』 『へ…平気って…』 『この俺様がガキみてェに、お前の事ばっか考えてンだよ…。あまりがっつかねェようにな、これでも努力はしてる訳。 お前に…わかるか?』 『そ、それで…結果、アレ?』 『…悪かったなァ、ケダモノで!!』 信じられない…。 彼がそんな風に思っていたなんて。 結果はどうであれ、僕に負担を掛けまいとしていてくれたなんて、知らなかった。 ま、アレじゃわかんないよね…。 ちっとも変わんないんだもん。 でも本当は僕、レオナードにそう言われて、嬉しいって思ったんだ。 僕と会えない時も、同じ様に想ってくれてたんだって。 胸がぎゅっと苦しくなるような、でもそれは決して嫌なものじゃなくて。 『…あのね、僕…本当はレオナードと一緒に居るだけで、幸せなんだ』 『………』 『ただ話をしたり、一緒にご飯を食べたりとか、何でもいいんだよ。レオナードが僕の傍に居てくれる事が、 僕にとってはすごく大事なんだよ』 『………』 僕の言葉を彼は黙って聞いている。 上手く言えるかわからないけど、正直に言わなくちゃと思いながら、さっきの会話で僕が気付かなかった事があったのを思い出した。 『そ、それで…あの…』 『…何だよ?』 『ぼ、僕…そんなに…レオナードにベタベタくっ付いてたり、してたの…?』 『あァ? …お前、マジで自覚無いのか?』 『う、うん…』 『まァ確かにな…お前がそういうつもりじゃなくても、だ』 『レオナード…僕、多分…』 『何だ?』 『一緒に居るだけで幸せって思うのも本当で…』 『………』 『だけど…』 『…?』 『好きな人と一緒に居たら、シたいって思うのも…』 『…はァ?』 『………』 『………』 自分で言ってて、恥ずかしくなってきちゃった…。 だって、これじゃまるで…。 『へェ…。無意識に俺に欲情して、誘ってたって訳だ…?』 『う…。そんなにはっきり言わなくても…』 『そうか、そうか…』 『な、何…その、嬉しそうな顔…』 『ン? 嬉しいに決まってンだろ?』 『…本当?』 『何でそんな事訊くンだよ?』 『…訊きたいから』 『は?』 『だって…レオナード、エッチな事ばっか言って、あんまりそういうの言ってくれないから…』 『…お前なァ』 『…キライって言って、ごめんね』 『あァ…アレはわかっててても、結構キたぜェ?』 『ごっ…ごめんなさい…!!』 『冗談だってェの。イチイチ本気にすんな』 『ん…。レオナード、大好きだよ…?』 『っ…!! だからお前は…』 『ああっ…ちょ…っ、何?!』 『考えてみれば、お前…ずっとそのカッコだったンだよなァ?』 『やあ…っ!! んっ…』 『お前が可愛い事言うからだ…。ホラ、言えよ? 俺が欲しいって…言ってみろよ?』 『んっふ…っ、レ…レオナードも、言って?』 『しょうがねェな…。愛してる、マルセル。俺はお前にメロメロなンだよ…』 『あん…っ…ぼ、僕も…愛してるよ…だから、レオナードを僕に、頂戴…?』 『…後悔すンなよォ?』 『んっ…』 ***** 『でもさあ、レオナード?』 『ン?』 『今日はいつもと違って、イヤって言ってもすぐ止めなかったのはどうして?』 『…またその話か』 『だってまだレオナードから聞いてないよ、僕』 『………』 『ねえ、どうして?』 『…お前のせいだ』 『えええっ?! な、何で僕のせい?!』 『今日お前が夢に出てきたんだけどなァ…』 『へ?! 夢?!』 『またコレがエロいのなんのって…』 『ちょっ…、それは僕のせいじゃ…』 『ヤ、お前のせいだ』 『絶対違うし…』 『いいじゃねェか、そんなの』 『それであんなにしつこかったんだ…。何か、納得した』 『しつこいって…お前なァ?!』 『…夢に見るほど、僕に逢いたかったんでしょう?』 『違う…と言いてェとこだがな…』 『何で? 嬉しいよ、僕。夢に見てくれるほどレオナードに愛されて』 『…ったくよォ』 『そうそう。年甲斐もなく、僕が立てなくなるほど攻めてくれて、本当に嬉しいよ?』 『…お前、目が笑ってねェぞ? しかも俺様を年寄り扱いすンな!!』 『実際そうなんだから、しょうがないじゃん…。それに、僕はそんなレオナードも好きなんだからさ?』 『っ!!』 『あっ?! ちょ、ちょっと…?! もうダメだってば…!!』 『ダメは俺のセリフだ。天然なのか、わざとかは知らねェが…』 『んんっ…』 『俺をその気にさせるのが最高に上手いからな、お前は…』 どっちでもいいよ、そんなの。 僕が彼を愛していて、彼も僕を愛してくれてるんなら。 僕は彼と一緒に居られるだけで、幸せなんだから。 あとがき: ハイ、正解はレオマルでした!! しかし。 しかし、ですよ…。 どうですか、コレ。 どうなんですか、コレ…(汗)。 ちょっと趣向を変えて書いてみましたが、結構書き易かったんですよ。 マルセルも小悪魔度が低いですし、レオナードもヘタレっぷりがイマイチでしたが(汗) 年相応になってるんじゃないか、な〜…と(苦笑)。 少し前にレオエルも書いたんですが、最近のレオナードがカッコいいです(笑)。 豆田が書くにしては、ですがね。 エッチの内容はいつもどおりという事みたいですが、普段とエッチの時の性格がガラリと違うってのも萌え、ですよね〜(笑)。 ではでは、是非感想もお待ちしておりますm(_ _)m ココまで読んで下さってありがとうございました☆ ☆back☆/☆小説部屋トップへ☆/☆トップページへ☆