「クラヴィスの髪って…すごく長いのに、とてもキレイだよねえ…」 オリヴィエが珍しく執務机に向かっているクラヴィスの背後から、その髪を一房そっと掬い上げる。 「…そうか?」 「うん…。ね、何か特別なケア、してたりするの?」 興味津々といった風に尋ねるオリヴィエに、苦笑しながらもクラヴィスは答える。 「フ…別に何もしてはいない…。私はそれには気を遣わぬ」 「へえ?! それなのに、こんなにキレイだなんて…ズルイ…」 オリヴィエは本当に悔しそうな感嘆の声を上げる。 「…そうだ☆」 オリヴィエは何かを思い付いたのか、含みのある笑みでクラヴィスの顔を覗き込む。 「ねえ、少し…髪をいじらせてもらってもイイ?」 「…好きにしたら良い」 「ふふ☆ アリガト」 クラヴィスの頬に軽くキスをすると、オリヴィエは鼻歌混じりにクラヴィスの髪を梳き始める。 「……コレだけの長さがあるのに、この滑らかさ…!!うっとりしちゃうねぇ…」 本来なら、クラヴィスが誰かに自分の髪を触れさせる事など有り得ないのだが、オリヴィエの白く繊細な手に触れられるのは、 クラヴィスは不思議と心地よいものだと感じていた。 クラヴィスは執務に没頭しており、またオリヴィエもその邪魔はしないように気を遣っていた。 暫しの間、それが続いていたのだが…。 「クラヴィス様、いらっしゃいますか? エンジュです。拝受のお願いに来ました」 ノックの音と共に、聞き覚えのある鈴のような可愛らしい声がする。 「…エンジュか。入るが良い…」 クラヴィスは何の躊躇もなく、エンジュを室内へと促した。 「え…っ?! わっ…?! ちょ…、ま…って…?!」 何故かものすごく慌てるオリヴィエに首を傾げるクラヴィス。 そうこうしているうちに、エンジュが扉を開け…。 「失礼しま…っ?! す、って…き、きゃーーーーーー!! ク…、クラヴィス様っっ?!」 エンジュは入ってくるなり、クラヴィスの顔を見て、歓喜の悲鳴を上げた。 「…何だ? 何を…そんなに…」 「あ…、あのね?! エンジュっ、コレは…」 「いや〜〜!! か………っ」 「「か?」」 「カワイイ…っ♪♪♪」 「エ、エンジュ?!」 「………」 エンジュは自分の胸元で手を固く握り合わせ、クラヴィスの座る机までものすごい勢いで駆け寄ってきた。 「わ〜…、すごい…素敵〜〜!! クラヴィス様、良くお似合いですよ?!」 「…何の事を言っている?」 「え…?! な、何って…」 オリヴィエがエンジュに向かってゼスチャーで口に人差し指を立てて見せるが、気付いていない。 「だってクラヴィス様、私とお揃いじゃないですか…?」 「…揃い? お前と…?」 「ほら、この…髪の毛ですよ?」 「…!?」 驚いてオリヴィエに振り返ろうとした際に、クラヴィスの目に入ったのは…。 見慣れた自分の髪が、見事なまでにきっちりおさげに編まれていたものだった…。 オリヴィエは額に手をあて、項垂れている。 それを見詰めるクラヴィスも脱力している。 「…ゴメン、クラヴィス。人に見られるなんて…、私が迂闊だったよ。 私のちょっとした悪戯だったんだけどね。エンジュも、今ここで見た事は忘れてくれるかな?」 「え…どうしてですか?」 「「は…?!」」 「すごく、お似合いなのに…。オリヴィエ様、ほら、こっち来て下さい!!」 「え…?! ちょっと…?!」 呆けているオリヴィエの手を取り、クラヴィスの正面に立たせるエンジュ。 「ね?! オリヴィエさま?!」 「…ホントだ」 「…オリヴィエ?」 エンジュの言うまま、自分の姿を隈なく見つめている恋人の口から、とんでもない言葉が飛び出したのにクラヴィスも溜め息を漏らす。 暫くクラヴィスを眺めていたオリヴィエが、急に思い立ったように口を開く。 「ねぇ、エンジュ? あんたのソレ、貸してくれない?」 「!! はい、いいですよ!!」 「?」 「…あ!! オリヴィエ様、折角なら…コレ、一緒に編みこんでみましょうよ? このクラヴィス様の漆黒の、艶のある髪に良く映えると思いませんか?!」 「…言うじゃないの、エンジュ☆ あんたも、ノリのいいコだねぇ? そういうの、私は大好きだよ?」 「うふっ…♪ 私、キレイなものや、カワイイものを見るのが大好きなんです!! …勿論、その中には人も入ってるんですけど。 だから、オリヴィエ様の事も、私大好きです!!」 「ん〜、良いコだねぇ、あんたって☆ じゃ、早速…エンジュはそっちをお願いね?」 「はい!! お任せ下さい!!」 自分を全く無視して交わされる会話に、嫌な予感がしたのか…クラヴィスが口を挟もうとして、オリヴィエに阻まれる。 「オリ…」 「クラヴィス? 動かないでね? 動いたら、暫くエッチはお預けになるけど…それでもイイなら、どうぞ?」 「…!! 何故、そんな事になるのだ…」 「ま、イイからイイから…。ふふ、楽しいね〜?」 「はい!! 私も、すごく楽しいです!! でも、クラヴィス様、本当にキレイな御髪ですよね?」 「ねぇ? 私も羨ましいんだよね…」 すっかりオリヴィエとエンジュのされるがままになってしまったクラヴィス。 そこへ、再びノックの音が響いた。 「…クラヴィス? 私だ。先程の書類は出来たか…?」 急いでいたのか、返事を待たずにジュリアスが扉を開いた。 「わ…?!」 「きゃっ…?!」 「………」 驚いたオリヴィエとエンジュが、短い悲鳴を発した。 「…!? な…、クラヴィス、なのか…??!!」 「どうされましたか、ジュリアス様…?!」 「……あ…、あれ…は、クラヴィス……の…」 「? クラヴィス様が、どうかなさいました…か……?! ク…クラヴィス様?!」 ジュリアスと共に入ってきたのは、リュミエールだった…。 「あ〜…、やっちゃった…」 「オ…オリヴィエ様…、どうしましょう…?」 「ん〜…。如何ともし難いねぇ…」 信じられないものを目撃してしまい石と化した、ジュリアスとリュミエールを目の当たりにしたオリヴィエとエンジュは、 深い深い溜め息を吐いたのだった…。 *** 「…私が一番の被害者だと思うのだが…、違ったのか…?」 「ん〜、微妙な感じではあるよね…」 「ええ…、ジュリアス様…大丈夫かしら…?」 「…ああ、大丈夫だよ? あの様子じゃ、あの人も夢だと思って、忘れちゃうだろうし」 「…リュミエール様は?」 「ふふ、大丈夫だって、エンジュ? リュミエールはクラヴィスのコトに余計な口は出さないから」 「そ…うなんですか?」 「そ。それよりか、面白がってオスカーに話してるって?」 「…だろうな…」 「あ…、ゴメン…」 「あ、あの…私、出直して来ます!! 失礼します!!」 「ああ、じゃあ、またね?」 「はい!!」 エンジュが出て行くと、またしても2人は大きな深い溜め息を吐いたのであった…。 「…オリヴィエ?」 「…何?」 「この借りはたっぷりと…お前の体で支払って貰うからな…?」 「はいはい、クラヴィスの好きにしてちょうだい?」 「…何だ、やけに殊勝な態度だな…?」 「別に…いいんだけどさ、クラヴィス?」 クラヴィスがオリヴィエにキスをしようと、その腰に腕を絡めた時…。 やんわりとオリヴィエがそれを制した。 「…どうした? 私の好きにさせるのではなかったのか…?」 「…いや、それは構わないんだけど…」 「?」 「ソレ…、解いたほうが…イイと思うんだよね…?」 オリヴィエが気まずそうに指したのは…。 まだ、エンジュのリボンが編みこまれたままのクラヴィスの、髪だった…。 あとがき: ははは(汗)。 あ……。 ありえねえ〜〜〜〜〜〜〜!! ごめんなさい〜〜〜〜〜〜〜!! 豆田、楽しかったです〜〜!! まだ言うか、このオンナ!! 06/11/19加筆修正。 ☆back☆/☆小説部屋トップへ☆/☆トップページへ☆