「はあ…また今週もダメか…。この前は俺が都合つかなかったし、その前は何だっけか? こんなんでイイのか、俺達…」 ゼフェルは肩を落とし、大きな溜め息を吐いた。 聖地の宮殿の中庭にあるベンチに腰掛け項垂れていると、目の前で誰かが立ち止まっているのに気付く。 「…ゼフェル? どうしたの、溜め息なんか吐いちゃって。若さが無いねぇ、全く」 「ああ、オリヴィエか…。何でもねーよ」 「また〜、そんな顔しちゃって、何でもないってコトはないでしょ? ホラ、話してごらんよ? …少しは楽になるからさ」 オリヴィエはいつの間にかゼフェルの隣に腰を下ろし、組んだ膝の上に片肘を着いてゼフェルを覗き込んでいる。 「…そんな事言っておめー、面白がってるだけじゃねーのか?」 「ま、失礼しちゃうね〜、このコは。興味がないって言ったら嘘になるけどさ、それよりアンタの様子がおかしいから 心配してるんじゃないの。人の好意は素直に受け取るモンだよ?」 オリヴィエはゼフェルの背中をバシバシと数回叩くと、見た目よりも柔らかい銀髪に指を通す。 「オ…オイ?!」 「…どーせ、アリオスのコトでも考えてたんでしょ? 最近、あんた達上手くいってるの?」 「……そう見えんのか?」 「ん〜…、見えなくもないけど…。少なくとも、今はそうは見えないよ?」 少し困ったような笑みを見せつつも、オリヴィエは努めて明るくゼフェルに問う。 「……で、何があったの?」 ゼフェルも眉根を寄せ、オリヴィエから視線を避けるように顔を俯かせた。 「別に…大した事じゃねーんだよ。ただ…」 「ただ…、何?」 「なんだかんだ言って、お互い忙しい身だろ? …違う宇宙で暮らしてるワケだし…」 「…ま、ね。コレットも逞しくなったよねぇ、あのアリオスをあそこまでこき使うとは…」 「…ソレ、だよ」 「…へ?」 「…アイツ、最近休みがねーんだよ…」 「…無いって、全然?」 「ああ。ただでさえ、ロクに会えてなかったってのによー…。こんな事になって…かれこれ、そうだな。…3ヶ月は会ってねーな」 「…はぁ?! 何?! そんなに会ってないの?!」 「そーだよ、そんぐらい経ってるぜ?」 「でも…連絡位は取り合ってるんでしょ?」 「取り敢えずは、な? だけど、アイツも俺もそんなマメな方じゃねーからなー。 休みの日に会えるかどうか、確認するぐれーだよ」 「………」 「…オリヴィエ?」 「…本当に仕事なの? そんなに休みが無いなんて…」 「っ…?!」 「や、変な意味じゃなくてよ?」 「…どーゆー意味だよ?!」 「だから、体調崩して臥せってるんじゃないかって…。そういう弱いトコ、見せたがらないでしょ?」 「……!!」 「ひょっとしたら…って思っただけだからね?」 「でも、もしホントだったら…どっかから漏れるだろ?」 「そうだけど…。それか、もしくは…」 「?」 「…浮気してる、とか…?」 「げっっ?! な…何言い出すんだよ?! おめー…やっぱ、面白がってんなっ?!」 「まあまあ。…ソレは冗談だけど…」 「………」 「ゴメン、不安にさせちゃ…意味がないよね、忘れてよ。今のは…」 「………」 「あ…ゼ、ゼフェル?!」 ゼフェルの瞳には、じわりと滲んできた涙で縁取られ、辛うじて引力に逆らっている…といった風であった。 「……俺も、ソレは…考えなかったワケじゃねーんだ…」 「…ゼフェル?」 「けど、本当に女王にこき使われているだけかもしんねーし…。それに、あまりそーゆー事言って、ウザがられたくねしよー…」 「…そっか。離れてると、それだけでいらないコトばかり考えちゃうモンだしねぇ…。だけどゼフェル? アリオスは…例え、そんなコトがあったとしても…アンタに隠し事をするような男じゃないでしょ?」 「…ああ。頭じゃわかってるし、そう信じたいのはやまやまだけどな…?」 ゼフェルは手の甲で自分の涙をぐい、と拭うと力無く笑った。 「もう…っ。ゼフェルってば可愛いんだから☆ いいよ、私は見なかったコトにしておくよ。 このオリヴィエ様の胸を貸してあげる。…泣きたい時は、逆らっちゃダメなんだよ」 オリヴィエはそう言うと、ゼフェルの頭を両手で抱え込むと自分の胸に抱き寄せる。 「な…?」 「ホラ、イイから…じっとして。無理に押さえ込むとね、どっかで歪みが出来ちゃうんだよ。 私だったら、恥ずかしくないでしょ? 意地を張らなくてもいいから…ね?」 「ああ…」 ゼフェルは小さく頷くと、今度は流れてゆく涙を零れるままにしていた。 暫くの間そうしていると、頭上からわなわなと震えた素っ頓狂な声が降ってきた。 「あっ…あっ…あっ…、あなたたち…!! 何を…何してるんですかっ?!」 見上げるまでも無く、ルヴァが驚いて2人を凝視している。 「…ルヴァ」 偶然中庭を通りかかったルヴァが、狼狽して声を上げたのに対し、オリヴィエは動じずにルヴァを見ながら 自分の唇に人差し指を宛てる。 「しー…! ちょっと、静かにしてくれる?」 オリヴィエの言葉と、ゼフェルがさっきから身動きしないのを不思議に思い、ルヴァは腕の中に納まっているゼフェルを覗き込む。 よく見ると、目の縁を赤くしたゼフェルの規則正しい呼吸が聞こえてきた。 「…泣き疲れて、寝ちゃったんだ」 「…何か、あったんですか?」 「ん…ちょっとね。全然アリオスと会えてないらしいんだよ、このコ…」 「そうでしたか…」 「もう…3ヶ月も、だって。」 「…!! それは…辛いでしょうねー。私達はただでさえ、自由に会える環境ではないですしね…」 「ん…、そうなんだよ。ゼフェルもさ、こういう性格だから、素直に寂しいって言えないコだし…」 「そうですねー…。しかし、そうは言っても、忙しいのは確かでしょう。 兎に角あちらの宇宙は今、目覚しい勢いで発展を遂げていますし…」 「…ずっと、我慢してたんだよねぇ…」 「ええ、弱音を吐く子じゃありませんから…」 「…違うの!!」 「…はい?」 「私が、ずっと…トイレに行きたいのを我慢してたの!!」 「………は……」 「ゴメン、ルヴァ。ゼフェルをちょっと預けてイイ?」 「え…あ、はい。行ってらっしゃい」 「…起きないように…気をつけて…、ん…しょ…っと!!」 「…大丈夫のようですね?」 「あ〜あ。泣いたまま寝ちゃうと、起きた時、浮腫んじゃうんだよね…」 「仕方ないですねー…。でも、オリヴィエのおかげでゼフェルは…少し楽になれたのでしょうね…」 「な…、どうしたの?ルヴァ…」 「…以前のゼフェルなら、こんな…人前で泣くなんて、有り得ませんでしたからねー」 「…アリオスと付き合うようになってから、変わったものね、ゼフェルは」 「…ええ、そうですね…」 「そうだ、ついでにゼフェルを部屋まで届けてくれる? …もう執務どころじゃないから、このコ」 「そうですねー、少し張り詰めているようですし、今日はゆっくり休ませましょうねー…」 ルヴァとオリヴィエはゼフェルを鋼の館に送って行くべく、立ち上がる。 「…起こさないように…気を付けなくちゃね」 「はい、大丈夫ですよー?」 「…転ばないでよ?」 「は…はい…」 その一部始終を物陰から見詰めていた人物がいた事を、2人は気付いていなかった…。 「ん………。あ…? な、何だ? ココ…俺の部屋、か…?」 目覚めたゼフェルは、さっきまで中庭でオリヴィエと話していた筈の記憶を思い出し、今の自分の状況が良く把握出来ずにいる。 「……お、目が覚めたか?」 不意に聞き覚えのある声が、室内にやけに大きく響く。 ま…さか………?! 「な…っっ?! ア…、アリオス?!」 寝室の扉付近の壁に凭れて立っているのは、紛れも無く…。 ずっと、会いたくても会えなかった恋人の姿に目を見張るばかりで、言葉が何1つ出てこないゼフェル。 「…久し振りだな?」 ゆっくりとこちらに向かってくる足音が、漸くゼフェルの思考を働かせる。 な…んで、アリオスがココにいるんだ?! 会えないって言ってたのに…。 しかも、今日は休日でも何でもねー日だろ?! それなのに…。 おまけに、俺…誰にココまで連れて来られたんだ?! 「…何だ? 3ヶ月振りに会えたっていうのに、ちっとも嬉しそうじゃねえな…?」 アリオスのいつもの口調なのだが、何処か棘がある声に感じられる。 ゼフェルは、ハッとしたようにアリオスの顔を見上げるがやはり、その表情は硬いと言うよりかは怒りのようなものを滲ませている。 「ちょ…っと、待ってくれよ? 俺、何が何だか…」 「…お前を驚かそうと思って…な。やっと目途がついたから、その足でお前に会いに来てやったんだが…」 「…何だよ? 何…怒ってんだ?」 アリオスは苦々しげに舌打ちをすると、ベッド脇にある1人掛けのソファーに音を立てて座り込んだ。 「…俺がいない間も、お前はいろんな男と楽しんでたみたいだし…な?!」 「…はあ?!」 「この俺が、浮気をされるなんてな…。お前をガキだと思って、油断してたようだ」 「う…?! 何言ってんだよ?! お…れが、んなコトするワケ、ねーだろっっ?!」 「お前が今日、中庭で誰と何をしていたか…覚えてないとは言わせないぜ?」 「…!! 中庭で…って…、おめー…見てたのか?!」 「話までは聞こえなかったがな…。だが、お前は嫌がる訳でもなく…ここに運ばれるまでそのままだったからな」 「あ…? オリヴィエがここまで俺を連れて来たのか…? じゃあ…あのまま俺…寝ちまったのか…」 「…寝てただあ? 他のヤツにまで寝顔を晒しやがって…どういうつもりだ、ああ?」 「な…んだよ!! 元はと言えば、全部おめーのせいじゃねーか!!!!」 「…はあ?」 「…オリヴィエは…俺の話を聞いてくれてただけだよ!! …俺の様子がおかしいからって、心配してたんだ…」 「何の事だ…?」 「お…っ、おめーと…ずっと会えないから…俺…」 「!!」 「いろんなコト、考えちまってたんだよ…。もしかして、病気にでもなっちまったかとか、それとも…」 「…それとも、何だ?」 「……俺に…飽きて、浮気…してんじゃねーか…って」 「…マジか?」 「1人でいると…よけーなコトまで考えちまうんだよ…!! こんなコト…おめーに言えるワケ、ねーだろ?!」 ゼフェルはいつの間にか、また無意識のうちに零れ落ちる涙を服の袖で拭うと、ベッドから飛び降りた。 「…おい、どこへ行くんだ?!」 アリオスがゼフェルを呼び止めるが、それを無視し部屋を出ようとする。 アリオスは素早くゼフェルを捕まえると、自分の腕に中に絡め取る。 「!! はな…せっ!!」 「やだね。まだ…お前の顔を良く見ていないから、な。…ほら、俺にその顔を見せてくれよ…?」 「!! や…だって、言ってんだろ?!」 「…アイツには良くて、俺は何でダメなんだよ?!」 「…はあ?!」 「…アイツも、お前の…その顔、見たんだろ?」 「………。何の…コトだよ?」 「…どうして、俺に何も言わないで…他のヤツに言うんだ? 俺は、お前の恋人じゃなかったのか…?!」 ゼフェルは暫しの間、呆然としてアリオスの言葉を頭の中で繰り返していた。 「だ…って、おめー…」 「…何だよ」 「俺が…そんなコト言ったら…、困んだ…ろ…?」 「…は? 何言ってる?」 「仕事なんだから…そんなコト言えば…俺のコト、うぜえって思うだろ…?」 「…あのな?」 「…え?」 「俺に言わないで誰に言うんだよ? …何で、俺の知らねぇお前の事を、他人が知ってるんだよ?」 「…あ」 「…ったく…、ちょっとは考えろ。俺以外のヤツに抱き締められているのを見た時の俺の気持ちが、お前にわかるか?」 「…ゴメン」 「お前のこの髪も…その涙も、体も…」 アリオスは言葉と同時に、ゼフェルの髪から…頬を伝う涙、体へと手を滑らせてゆく。 「そして…ここ、も…。全部、俺の物だろ…?」 そう言って、ゼフェルの心臓の上を軽くノックするように叩いた。 「っ…!!」 「違うか…?」 アリオスがゼフェルの耳を食みながら、少し掠れた声で囁いた。 ゼフェルはビクっと体を震わすと、頭を左右に大きく振りアリオスに抱き付いた。 「…寂しい思いをさせたのは、俺が悪かった。だけどな?」 「…?」 「…女王が、やっと長期休暇をくれたんだよ」 「…え?」 「朝から晩まで…お前を会えなかった分まで、可愛がってやれるから…な?」 「!! …アリオス?」 「…嫌なのか?」 「っ…、ヤなワケ…ねーだろ…!!」 「クッ…そうか…。じゃ、ベッド戻るぜ?」 「か、勝手にすれば…」 アリオスはいつものようにゼフェルを姫抱きすると、再びベッドに横たえた。 その上に覆い被さるようにゼフェルに口付けると…。 「あ…、忘れてた…」 「…何だ?」 「…お帰り、アリオス」 「!! …参ったな…」 「…? 何がだよ?」 「手加減…できねぇかも…な?」 「!!」 「ああ…、ただいま…」 2人はふっと笑みを零すと…また口付けを交わした。 あとがき: アリオス、出番短かったですね(汗)。 でも、オリヴィエのシーンがないと話が繋がらないし、何としてもアリオスには嫉妬して欲しかったんです。 この中でも地夢の関係はそのままだったりします。 ルヴァの狼狽する姿は結構好きです(笑)。ホントに、オリヴィエにベタ惚れですからね〜。 ゼフェルがま〜た可愛い事言っちゃってくれて、豆田も萌えましたよ。 アリオスも、嫉妬してもカッコよく書くのに悩みましたが、どうですかね…。 豆田の弱い頭ではコレが限界です…。 アンケート1位のこの2人のお話、如何でしたでしょうか? 感想の方、切実にお待ちしております!! 彼らに投票してくださった皆様、ありがとうございましたm(_ _)m 06/11/15加筆修正。 ☆back☆/☆小説部屋トップへ☆/☆トップページへ☆